■第二部■ プログラム編 - 9 - 覚悟






2日目午後3時夢の海岸
柳生 美穂(女子8番)は名刀「無銘」を片手に仁王立ちしていた。
(陽平、やっとあんたと決着つけれるね。場所が納得いかないけど。)
美穂はまさかプログラムの中で生死をかけた決着をつけるとは思わなかった。
(どうせ生き続けてもあと1日しかないそれだったらこの世で無念残したくないしね。)
美穂は自分が生き続けれるとは思っていなかった。
ザッ・・・
待ち人は現れた。一人の友を引き連れて。
「やっと来たね。ではさっそく。」
美穂は刀の柄に手をかけた。
「ちょっと待ってくれ・・・柳生さんはここで死ぬって考えてるんだろ?じゃあ最後ぐらい話をしてもいいだろ?」
立花 陽平(男子7番)は手を前に出してSTOPという手振りをした。
「あたいはなぁ〜にも話すことなんてないんだけどねぇ、よ・う・へ・い・く・ん。」
「てめぇ、舐めてんのか?」
武車 健太(男子10番)はキレていた。
「おいおい、どうした健ちゃん?カルシウムでも足りないのか?俺は柳生さんと話すって言ったんだけど。」
「あっ、わりぃちょっとカッとなってしまった。」
健太は後ろに下がった。
「ひとつ聞きたいのはどうして俺と命かけた勝負を挑むのか?ってことだ。」
「そんなことも理解しないでここにきたの!?てっきりあんたぐらいは分かってくれると思ってたんだけどねぇ。」
「わりぃな。俺は頭悪いからな。」
(ウソつけよぉ。陽ちゃんテストいつも2位じゃないかぁ!)
伝家の宝刀健太の天然つっこみを心で唱えながら健太は二人の様子を見ている。
「なんかムカつくんだよねぇ、あんた見ると・・・目障り。だからここで消えてもらう。」
「そんなの・・・理由になっていない。俺は柳生さんのそんな自分勝手なわがままのために命なんてはれない。
俺は仲間を集めるのに大変なんだ・・・俺、柳生さんには失望した。柳生さんなら分かってくれると思っていたのに。」
美穂は言い返せなかった。
陽平は背を向け歩き出した。
「いこう、健ちゃん。」
その時だった。
キンッという音が鳴った。
健太は柳生の刀を陽平が受け止めているのを見た。
「あんたなにやってんの?あたいは決着つけようっていったんだよ。はいそうですかって帰すと思う?」
「思わないね。だから刀を抜く準備をしていた。」
美穂は陽平と間合いをとって
「本当のこと教えてあげようか?」
「やっとその気になったか。」
「あたいはあんたのことが気に入らなかった。あたいは柳生の分家。あんたは立花とかいうじじいの孫。どう考えてもあたいのほうが有名になるのは約束されてたはずだった。でもあんたはあたいをどんどん追い抜かし2位の座まで登りつめた。」
「柳生さん、よく俺のじいさんのこと知ってるなぁ。」
「当たり前だ!あんな刀の振り方も知らないじじいが剣道会の会長になるのがおかしい。会長はあたいのお父さんのはずだったのに。」
「刀の振り方も知らないじじいってのは失礼だなぁ。あれでもこの世にだだ一人の二刀流の達人なのに。」
「剣道に二刀流なんてないよ。バカじゃないの!」
「だから俺は頭悪いさっき言ったばっかじゃん。」
みていた健太は二人のギャップのちがいが面白かった。
(あたいは忘れないよ。いままでの屈辱を)



『小二』

「そこまで勝者 柳生。礼!」
陽平と美穂はきちんと礼をしてその場を退いた。
「ねぇ、どうしたら美穂ちゃんみたいに強くなれるのかなぁ。」
「う〜んとね、やっぱりたくさん練習することかなぁ。」
「ふ〜ん・・・じゃあたくさん練習したらまた試合してくれる?」
「うんっ。」
「じゃあ約束。」
陽平は太陽のような眩しい笑顔で小指だした。
「指きりげんまん!っと」

(あの時はまだあたいのほうが強かった)

『小5』

「そこまで勝者 柳生。礼!」
陽平と美穂はきちんと礼をしてその場を退いた。
美穂やたら呼吸が激しかった。
陽平の周りに人だかりができる。
「お前もう少しだったのにおしかったなぁ。」
「もうすぐお前もあいつに勝てるかもしれないな!」
陽平は照れながら
「いや、まだまだだよ。柳生さんの腕には敵わないね。」
「なんだとこのぉ。」
陽平は頭をぐりぐりされていた。

(あんたはこの辺から強くなってきた。あたいも本気を出さざるを得なくなってきていた)

『中1』

「そこまで勝者 立花。礼!」
陽平と美穂はきちんと礼をしてその場を退いた。
「よ〜しまた勝ったぞぉ。これで76勝28敗だぁ。」
「はいはい、よかったね。」
「柳生さん、まさか嫉妬かなぁ?」
「なにを言ってる!?そんなわけないでしょ。それにあんた女相手に手加減ってことばはないの?」
「だって柳生さん強いんだも〜ん。気を抜くと負けちゃうしねぇ。」
「なぁ〜にいってんだい。全国2位の立花くん。」
「ああ、それいうなら女子全国1位の柳生さ〜ん。」

(あんたはどんどん男の体になっていってあたいの力じゃ押しつぶされそうになっていたな。この辺からあたいは自信をなくしていったの。)



「あたいはここであんたに負けるわけにはいかないの。負け続けて死ぬのはいや。」
「柳生さんの気持ちは察していたよ。どんどんおい抜かれていくその恐怖も。」
「あんたは絶対分かっていなかった!!」
「分かっていたさ!!!俺は柳生さんがなにを考えているかも分かる!!!」
「冗談はやめて!あんたに分かるはずないでしょ、あの恐怖も柳生という看板も!!」
美穂は大粒の涙を浮かべていた。
(柳生さんは本気だ。俺は柳生さんの目を見たら何を考えているかも分かるようになっていた。)
「もう話は終わり。ぐすっ・・・こっちからいくよ!」
美穂は勢い良く飛び掛かった。
キンッ ギチッ
美穂の刀を陽平は刀でしっかり受け止めた。緊張感たっぷりのつばぜり合いが起こった。
健太はボウガンを構えている。
「健ちゃん!これは俺の戦いだぁ。手ぇだんすんじゃねぇ。」
「違う!陽ちゃんが殺しそうになったら俺が殺る。陽ちゃんには人殺しなんてしてほしくない。」
「大丈夫だ。」
「あんた余裕ぶってんじゃないよぉ!!」
美穂はつばぜり合いから少し後退して突きに転じてきた。
「うわっ!」
陽平はなんとか見切って避けたつもりだったが左腕の上腕のあたりに刀が突き刺さっていた。
つぅーといった感じで血が出てきた。
「ぐっ。」
「これはあんたが私をあまく見た罰だよ。あたいは本気だよ!あんたも本気でかかって来な!!」
陽平は左腕がいうことを利いてくれないのが分かった。
(これはやべぇ・・・柳生さんは本気だ。ここは勝って心服させるしかない。どうすればいいんだ。やっぱり相手の武器を奪い、意識を落とすしかないか・・・酷だがしかたない。)
「分かった。でも条件がある。」
「条件?なんだいそれは?」
「柳生さんが負けたら俺たちの仲間になってくれ、それが条件だ。」
「なぁ〜に言ってんだ。これは本物の刀だよ。負けたら死あるのみ。」
美穂は女の子とは思えない大股で構えた。
(これは柳生流の構えだ。)
「で、どうなの?条件を飲むのか?飲まないのなら俺は本気を出さないし逃げる。」
(なにを考えてるのあんたはそれじゃああたいが困るんだよ!)
「わ、分かった。あんたの条件を飲むよ。」
(まあ飲んでも一緒だけど、どうせどちらかが死ぬに決まってる。)
「じゃあいくよ。」
またも美穂から飛び出した。さっきと段違いのスピードで来た。
(まずは受け止める。武器を奪う。そして絞め技で意識を落とす。よしこれでいく。)
陽平は段取りを確認し刀を受け止めた。
キンッ。
しかし美穂もこれで終わりではなかった。
つばぜり合いになる前に刀を引いて突きに転じた。
(同じ手には引っかからない。)
陽平はしっかり見切って避けた。それでも学ランの肩の部分が切れていた。
(ここだ。)
陽平は一瞬の隙を逃さず美穂にミドルキックをお見舞いした。
美穂はなにが起こったのかわからないといった表情で倒れた。
陽平は美穂にのしかかり刀を奪った。そして絞め技に転じた。
美穂は苦しいの限界点の状態だった。
(なにやってんだ、陽ちゃん。あれじゃあ柳生死んじまうんじゃないのか?)
健太はすかさずボウガンを撃った。
(陽ちゃんには殺人はさせない。)
矢はなぜか陽平の右肩に当たった。
(あっ、やべぇ・・・)
「違う!意識落として捕獲するんだ。」
「ええっ、そうだったの!てっきり殺すのかと。」
(矢当たったのによく普通でいられるなぁ。)
美穂の意識は飛んだ。少し白目をむいていた。
「よし、これでなんとか収まったな。っていてぇ〜。なんで俺に矢撃つんだよぉ。」
「わりぃって大丈夫か?」
「ああ、なんか分かんないけどあんまり痛くないというより眠い。」
「そういえば矢に睡眠剤ついてるんだこれ。」
「それをさっさとい・・・むにゃむにゃ。」
ぱたっ
(おい、こいつら俺が運ばないといけないのか?)
健太は自分のミスに頭をうずめた。

美穂は目を覚ました。時計を確認した午後5時だ。
隣には大の字に寝ている大男がいた。いい寝息だ。
(あたいは負けたんだな・・・全力に達する前に押さえられてしまったんだな。)
美穂は分かっていた。今の陽平と戦っても勝てないと。
(近くで改めて見るといい男だねぇ。)
180センチを越える身長としなやかな伸びのある筋肉でできた引き締まった体、頭はいいし人望も厚い(顔もいい)
(まさにミスターパーフェクトだな。しいていうなら人を信じすぎるがちょっとね。)
「むにゃむにゃ・・・あっ、柳生さん起きてたの?」
「ああ、今さっきだよ。」
「そうかぁ〜よかったぁ。」
「で、なんであんたも寝てるの?まさか!?」
「ち、違うよ。そんなやましい考えはないよ。俺は健ちゃんに睡眠剤つきの矢で撃たれたんだ。」
「なんであんたが撃たれる?」
「それは・・・そんなことより約束は守ってもらうからな。」
「ああ、仲間になるってことだろう。どうせ助けられた命だから。別にいいよ。」
「よっしゃ!柳生さんがいれば百人力だ。」
「それは大げさだよ。あと、あたいの刀はあんたが持っていてよ。」
「え?どうして?」
「あんた、本当は二刀流なんでしょ。だからよ。」
「柳生さんはどうするの?」
「・・・あんたが守ってちょうだい。」
美穂は頬を赤らめながら言った。
「分かった。全力で柳生さんを守るよ。なぁ〜てね。」
(少しの間でいい。あたいを女の子にさせてくれる?)
「うん、もちろん!」
美穂はびっくりした。心を読まれたのか思った。
「どうしたの?びっくりしちゃって。」
「いや、なんでもないよ。よろしくな。」
美穂は手を差し出した。
「おう、よろしく。」
陽平は固い握手をした。
(柳生さんの手、白くてきれいだな。)
(あんたの手、大きくて温かいな。)




            
過去を断ち切ることはできない。でも未来は切り開くことができる。


【残り15人】と井上 和男


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