■第二部■ プログラム編 - 10 - 弱者の行方






「は〜い、今は午後6時ですよぉ。新たな禁止エリアはA5、A8、D3、G5、H1だぁ。次回禁止エリアはB5、C8、D4、F2、H2ですよぉ。残念ながらこの6時間には死者はいませんでしたぁ。おい、お前らどうした?早くしないとお前ら全員死ぬんだぞぉ。分かってると思うかもしれないが「弱者は死ぬ」ぞぉ。非情になりきらないとやっていけませんよぉ。じゃあがんばれよぉ。」

(やべぇ、あいつに斬られたところが痛い)
木の陰で休んでいた
佐々木 守(男子6番)は嘆いていた。
(あの時あいつ(柳生 美穂)には手ぇだすんじゃなかったな。いくら腹が減ってるからって人を襲うのはよくないな)
守はずっと自分の手にある硬式ボールを見つめていた。
(俺はこんなところで死ぬのかよ・・・武器もこれではあまりに頼りない。支給された食料も全部食べてしまった)
守はバックの中を再確認した。
何度探しても結果は同じだと分かっていたけども。
ざっ・・・
背後に気配を感じた。
(しまった)
守は動きたくても動けなかった。
(頼む、動いてくれ)
そしてなんとか立ち上がった。
ガンッ
「うっ」
守は思い切り後頭部を殴られた。しかも普通の痛みではなかった。
ぐらっと倒れそうになったが背後の相手が守の学ランを掴んでそうさせなかった。
「守!大丈夫かぁ!?」
前方には
松元 和也(男子9番)だった。
(和也か。じゃあ後ろのやつは誰なんだ?)
守はあまりの痛みにしゃべることができなかった。
「五十嵐!てめぇ、さっさとはなしやがれ!!」
守は自分の状況を把握できた。
つまり、自分は
五十嵐 慶吾(男子2番)に殴り殺されそうになったところを和也が助けに来てくれたということだった。
「聞いてるのかお前!?」
和也は友のピンチに動揺していた。
慶吾は守に言った。
「前に歩け。さもないと俺の今持ってるナイフで心臓をえぐりとる。」
普段めったに口を開けない慶吾がしゃべった。
(こいつ、何を考えてるんだ。しかしここで無理するのは得策ではない。)
守は歩き出した。
じりじりと和也との距離が狭くなっていく。
そして一瞬の出来事だった。
ドスッ、ドスッ。
守は2回刺された。背中に猛烈な痛みを感じた。
「うわぁ〜」
「守!くそっ。」
ガシャッ、ババババン。
何かが拡散するような銃声が聞こえた。
守が状況を確認できたときには和也が倒れていて、慶吾が何かを拾っているところだった。
そして慶吾は倒れている和也の前に立ち尽くした。
ガシャッ。
なんかをスライドする音だ。
「へへ、守すまねぇ。助けにきたのにかっこわりいよな。」
和也のはっきりした声が聞こえた。
「五十嵐、ひとつ言っておくぜ。そのショットガンにはあと一発しか入っ!?」
バババババババン。
またも何かが拡散するような銃声が聞こえた。
「か、和也ぁ〜!?」
守は悟った。和也は死んだと。そして銃声はショットガンのものだと。
「お、お前ぇ。よくも和也をぉ。うわぁ〜。」
守は刺された痛みも忘れ慶吾に飛び掛った。
しかし、慶吾はなんの表情の変化もなく、弾のないショットガンで思い切り守の顔面を殴りつけた。
すこし間が開いてから守は膝を折って倒れた。
そして慶吾は倒れた守をさらにショットガンで殴り続けた。
(へへ、今になって和也との思い出がよみがえってきやがる。これは走馬灯とかいうやつか、ということは俺もそろそろ死んじまうってことだな)



(やっと死んだか。人間はなかなか死なないものだな)
慶吾は守の死体を前にそう思った。
守の息の根が止まるまで殴り続けた。顔はもう原型を留めていない。ぐしゃぐしゃだ。
(俺はあと何人殺さないとダメなんだ・・・ここで勝っても俺はもう普通の生活には戻れないんだな)
慶吾は守を殴ったショットガンを捨て、守が最後まで持っていた硬式ボールを握った。
(結局、何もかもが茶番だ。野球も高校に入るためのプロセスに過ぎない)
慶吾はまたも立ち尽くして考え事をしていた。

(ひ、ひどい)
成本 愛子(女子2番)は殺人現場を目撃してしまった。
口を押さえながら震えている。
「だから見ないほうがいいって言ったのに。」
「先生はあの光景を見てなんにも思わないのですか。」
そう愛子と話していたのは
井上 和男(3−1担任)だった。
「私はあれ以上にひどい光景を目撃したことがあるからね。」
「先生、それって・・・」
愛子は察した。
(先生はもしかしたら)
「でも大丈夫だ。私についてくれば・・・あとは立花くんを見つけることができるかが今回の鍵だね。」
「今回?も、もしかして先生はBRの生き残りですか?」
愛子は思い切って聞いてみた。
「ん〜、今は言えないけどまた時期が来たら話すよ。」
(私達にそんなに時間はないと思うけど・・・)
愛子は少し心配だった。




                 
「経験」それも強さに値するほどの力


 死亡 男子6番 佐々木 守 
撲殺
男子9番 松元 和也     銃殺


【残り13人】と井上 和男


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