■第二部■ プログラム編 - 11 - 白銀の獅子 |
江井原 大輔(男子3番)は商店のなかに人の姿を確認できた。 (やっと見つけたでぇ。あれは間違いなく川村 安武(男子4番)と山下 達也(男子11番)や。) そう、彼は見つけた最愛の人を傷つけた人間を (空ちゃんの借りはしっかり返してもらうでぇ。わいの愛した人を傷つけたのは大きかったなぁ。) 大輔は腰に挿していたナイフと剣(エクスカリバー)を確認し商店のなかへ獅子のごとく駆けて行った。 <10分前> 「よくここまで生きてこれたよねぇ。」 安武は食料を探しながら達也に話かけた。 「そうだな。」 達也は時間を重ねるごとに口数が少なくなっていた。 ここ1日はまともに会話できていなかった。 (やっぱりあの時のことを根に持っているのかなぁ?) 安武はあの時を思い出してしまった。 (山下くんあの時どうして鷹山さんに襲い掛かったりしたんだろう?僕にはさっぱり分からない。) 安武の純粋な心はその意味を理解できずにいた。 「ねぇ?どうしてあの時・・・」 「何回も同じ質問するもんじゃないよ。大体分かるだろ?もう俺らは15才なんだぜ。」 (やっぱダメか。こいつどこまで純粋なやつなんだ?することは決まってるじゃないか。) 達也が考えていたのはいわゆる「いけないこと」だった。 (もうこの歳だぜ。死ぬ前に1回ぐらい神様も許してくれるだろう。) 達也はそんなことを考えていた。 「う〜ん・・・やっぱり僕には分からないや。」 「お前は分からなくていい。お前はそれも知らずに死ぬんだろうな。」 安武は?な顔をしていた。 「死ぬってまだ決まったわけじゃないよ・・・たぶん。」 「いや間違いなく俺らはどちらかは死なないといけない。その時はお前が死ね。」 達也は不適な笑みを浮かべ、安武はぎょっした顔をしている。 「な、何言ってるの?山下くん。」 「ははは、冗談だよ。」 (冗談じゃない。もしこいつと俺だけになったら俺はこいつを殺すだろう。これは必然の成り行きだ。) 「冗談?山下くん、この状況に言っていいことと悪いことがあると思わないの。」 「悪ぃ。本当に悪かった。」 達也は安武の様子がおかしいのに気付いた。 (こいつマジでキレてるのか?ここで騒ぎをおこすのはヤバイ。) 「じょ、冗談って言ってるだろう?どうしたんだよ。」 「何が『その時はお前が死ね』だよ。山下くんはそんな人じゃないと思ってたのに。」 安武は自分の支給武器であるヌンチャクに手をかけた。 「死ぬのは君だよ。無防備な山下くん!」 その時だった。 「どうしたん?仲間割れか?情けないやつらやなぁ。」 聞き覚えのあるヤツだった。 でもなにやら様子がちがう。 「お前、江井原か?」 達也が問うた。 「ピンポ〜ン。正解や。正真正銘の江井原 大輔やで。」 安武は今の大輔の姿に驚いた。 真っ白な髪、澄んだ青い目、獅子の鬣(たてがみ)のような髪型、そして彼が出しているオーラを感じることができた。 (なんだろう。このものすごい黒いオーラは・・・憎しみ?苦しみ?悲しみ?どれでもいい。これはヤバイことには変わりない。) 実は安武はものすごく怪奇な力を持っていた。 彼には人が放つオーラを感じることができたのだ。 (山下くんもさっきは少しだけ黒いオーラがでてたけど、江井原くんは普通じゃない!) 安武は立っているのも一苦労だった。 一方の達也も少しは分かっていた。なにか分からないものが自分を圧倒してきていることを。 「も、もしかして江井原くん仲間になってくれるの?君がいたら百人力だよ。」 安武の声は震えていた。 「仲間ぁ?なにゆうとん。アホちゃうかぁ。わいはお前らを殺しにきたんや!」 (まさか・・・今殺し回ってるのはお前だったのか?) 達也は声が出なかった。頭で考えていることが行動で反映されない。 「お前ら、鷹山 空(女子1番)襲ったやろ?へへ、運悪かったなぁ。あいつはわいのもんや。誰が手ぇだしてええなんかゆうたんや?」 大輔は初めて空を「あいつ」と呼んだ。 「あいつに触れることができるのはわいだけや!それをお前らは汚い手で触れようとした。罰は受けてもらう。」 しゃぁぁぁ、キン! 大輔は剣を抜き右手に剣、左手にナイフを構えた。 「ほな、掛かって来いや。死にたくなかったらなぁ!」 安武も達也も構えた。こればかりは文句を言わず協力するしかなかった。 「ヤス、力貸してくれるか。」 「しかたないね、まあ状況がそうだからね。」 先制は大輔だった。大輔は左手のナイフを達也に投げた。見事にヒットし達也は体制をくずした。 そして安武の前方に立った。安武は「信じられない」といった顔だった。 (は、速い!なんなんだこの人間離れした動きは!?) 安武は得意の「支えつりこみ足」を決めるべく大輔の服を掴んだ。 その瞬間、急に目が見えなくなった。大輔はもう一本のナイフで安武の目を斬りつけた。 「う、う、うわぁぁぁ〜!!!」 安武はこの島全体にも響きそうなぐらい大きな声で叫んだ。 「痛い、痛いぃぃぃ。」 「情けないやつやなぁ。わいなんか目ん玉移植する時2週間はその状態やってんでぇ。川村はんはあとで殺したるから安心しぃ。」 大輔は負傷した安武を背に達也のほうを向く。 「さぁ、あとは山下はん一人やでぇ。どないする?おとなしく殺されるかぁ?」 大輔は親指で背中の安武を指し「あいつは使えんぞ」と表示した。 「なんでこんなことしやがる!」 「なんでってさっきゆうたやん。罰を受けてもらうって。どうせ襲い掛かったのも「いけないこと」考えとったんやろ?だからって人の もんに手ぇだすんはあかんのちゃうかなぁ?」 「はっ、誰がお前のものだって?鷹山か?ははは、お前はバカか?人の気持ちなんていうのはな。読めねぇものなんだよ。」 といいかけたところで達也は大輔に襲い掛かった。 (よし、ここは俺の決め技で) 彼の得意技は「大外刈り」だった。見事に決まり大輔は刈られて倒れそうになった。 (今だ。ここで首絞め技で窒息死させてやる。) しかし、大輔は不適な笑みを浮かべていた。 大輔は倒れそうになろうとしたところで「巴投げ」の構えをとって投げた。 足をかける代わりに剣を達也の心臓に突きたてた。 そして剣と一緒に投げた。 大輔は立ち上がり、達也の様子をみた。完全に息の根が止まっていた。 「人の気持ちは分からんかもしれへん。せやけどわいは・・・」 そして大輔は安武の方にいった。 「僕が何をしたっていうんだよう。」 「あいつが襲われとうのを黙って見とった。これは実行犯のほぼ同罪や。助けることができたのに助けようともせんかった。」 大輔は達也に刺さっていた剣を抜いた。おびただしい量の血があふれてきた。 「そんじゃぁ。川村はんも地獄送ったろかぁ。」 大輔は剣先を安武の心臓付近にたてぐりぐりえぐりだした。 「う、うわぁぁぁ。」 「味わえ。あいつがされた地獄と同じ痛みを。死に近づいていく恐怖を。」 だんだん血がでてくる量が多くなってきた。安武の息も絶え絶えになってきた。 大輔は最後にぐっと心臓に押し込んだ。どばっと鮮血がでてきた。安武は痙攣をおこしながら息を引いた。 さらに大輔は達也の血を右目の下に、安武の血を左目の下に塗りつけた。MLBの選手の日よけのフェイスペイントみたいになっていた。 (空ちゃんに見せたらなあかんな。「悪夢はわいが殺した」って。) 大輔は「空ちゃん」に直した。 (間違いなく言えんのはわいの体も心も空ちゃんのもん。だから空ちゃんもわいのもんなんや!なぁ〜んてな) 大輔は血のにおいがする商店を出て、寝れる場所を探した。 彼の歩く姿はまるで「白銀の獅子」のようであった。 人の痛みは自分が身をもって体験して初めて分かるもの |
死亡 | 男子4番 川村 安武 |
刺殺 |
男子11番 山下 達也 | 刺殺 |
【残り11人】と井上 和男 |
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