■第二部■ プログラム編 - 3 - 試合開始 |
「では、さっそく始めてもらいましょう。」 山本(プログラム担任)のなかなかいい発音の声が聞こえてきた。 「ああ、あと出て行く前に何か言ってもらってもいいですよ。最後かもしれないですしねぇ。 もうひとつ言うのを忘れていました。今回は特別なゲストを呼んでいます。 もちろんみなさんと戦っていたただくつもりです。」 「もしかして井上先生?」 武藤 瑠璃(女子7番)は聞いてみた。 「んん?勘が鋭いねぇ。そうです、3−1担任の井上 和男先生が参加されます。」 皆が「ありえない」という顔をしている。やはり例の2人を除いてだが。 「井上先生はプログラムに激しく反対していましたが、やはり抵抗できないと分かったのでしょう。反対意見の者は殺されるのが普通ですが今回は七原政権崩壊から初めてのプログラムなので特別にそういう措置をとったそうです。」 「もういいでしょう。それでは始めます。男子は1番から、女子は9番からです。呼ばれたらそこの兵士からバックをもらって外にでてください。いきなり殺しあってもかまいません。殺し合いの卑怯もくそもありません。ではぁ 記念すべき男子1番 荒井 孝則」 荒井 孝則(男子1番)は席から立ち兵士の方に向かっていった。 (すごく視線を感じるな。今にも涙がでそうだぜ。) 「んじゃ、もう会うことはないかもしれないけどハニー(女子)たちは元気でがんばれぇ。野郎(男子)はどうでもいいけど。」 荒木は夜の闇に消えていった。 (あいつはあいつなりに気を保とうとしているんだな) 立花 陽平(男子7番)そう思うことにした。 「なかなかユニークな発言ですね。次ぃ〜 女子9番 和久井 優子」 和久井 優子(女子9番)はゆっくり立ち上がってバックを取りに行った。 「みんな・・・うっ、う・・・ごめん!」 和久井はバックを取り、泣きながら走っていった。 「普通人はあんな感じです。みなさん気にしないように。次ぃ〜 男子2番 五十嵐 慶吾」 五十嵐 慶吾(男子2番)はとっくにバックを取っていた。 無言のまま走っていった。 (あいつはやばい。要注意だ。) 立花は色々考えていた。これからどうすればいいかを。 「さすが1位の子だ。風格が違うね。次ぃ〜 女子8番 柳生 美穂」 柳生 美穂(女子8番)は立花を睨みつけていた。 (陽平、あんたはあたしが倒してあげるから) バックをもって堂々と歩いていった。 (なんだってんだ、柳生さん!君に何があったんだ?) 立花はさらに悩ませられることとなった。 「あっ、あれが例の・・・なるほど。では 次ぃ〜 男子3番 江井原 大輔」 江井原 大輔(男子3番)は何事もないように兵士のほうに歩いていった。 途中、紙切れを鷹山 空(女子1番)の席に置いていった。 そしてバックを手に取り、 「わいを見つけたら逃げるか本気でかかってきぃ。わいは躊躇なく殺すでぇ。わいはここで死んでも かまわんと思とう。もう生きるってことにあきあきしとるしなぁ。」 大輔はにこっと微笑んで闇の中へと消えていった。 (あの紙切れはなんだったんだろう) 立花はたまたま隣の席が鷹山だったのでちょっと覗いてみることにした。 (大輔からの手紙) 空ちゃん、こんな時になんやけど聞いてくれへんかなぁ。 空ちゃんにはほんまに世話になったわぁ。眼膜移植する前の2週間ぐらいずぅ〜とわいの側におってくれたなぁ。あの絶望から助けてくれたのはやっぱ空ちゃんやった。空ちゃんは困っとう時いつも助けてくれたなぁ。パンも最高やった。「余ったから」っていつもくれとったけど、あれ空ちゃんがわいのためにつくってくれたんやろぉ?知っとったでぇ。いままでほんまありがとう。そしてさよならやぁ。もう気付いてると思うけど、わい空ちゃんのことがメッチャ好きやぁ!!!!! (大輔くん・・・ありがとう) 空は大粒の涙を流した。 (あいつ、そうだったのか。知らなかったな。あいつもあんなこと言ってたけど・・・でも要注意人物には変わりない。あいつ、大輔はあの時動揺してなかった。) 立花の頭の中に様々な思考が展開されていた。もちろん政府もぶっ潰すことも。 「なにかやってくれそうですね、ふふふ・・・次ぃ〜・・・」 荒木はバックの中をあさっていた。 (何かないのか!?) 荒木は何か冷たいものに触れた。それを握ってバックの外に出してみた。張り紙がしてある。 (トマホーク・・・投げ斧としても使える便利な戦闘用の斧) 「なんだこれは・・・こんな重いやつ武器になんねぇよ」 サッカー部のエースストライカーであり、男子で一番足が速い荒木でも腕の力には自信がなかった。 (くそっ、こんなところで死ぬのか俺は) 荒木はクラス1顔がかっこいいと有名で将来芸能の世界でもやっていけると言われてた。 でも、軽い性格が評判を悪くしたらしく女子は一人も寄ってこなかった。 「くっ」荒木は少し泣きそうになりながらトマホークの柄をぐっと握り締めた。 (もう死ぬ運命なら誰かを守って死にたい。) そういう思いがこみ上げてきた。荒木は立ち上がろうしたその時だった。人の気配がした。 「誰だ!?」荒木は声を張り上げて言った。 後ろを向いたが誰もいなかった。だが気配はまだ消えない。 荒木はトマホークを構えて戦闘態勢に入った。が、いきなり気配が消えた。 ドッ。荒木の背中に何かが刺さった。 「うっ!?」荒木は崩れ落ちてしまった。 「何しやがる!くそぉ。」荒木は背中に刺さったものを確認した。 ナイフだった。 そして木陰から男が出てきた。 「てめぇは江井原か!?」 「そやでぇ。わいや。はは、えぇ気味やなぁ。一中1のイケメン、ナイフで刺殺。なかなかおもろいやん。」 「くっ、くそぅ。てめぇ!!」 荒木はトマホークをブンブン振り回した。だが当たるはずがない。出血が激しいのか目がかすれてきた。 「その武器はそうやって使うんとちゃうでぇ。わいが教えたるわぁ。」 江井原は腰に挿していた。もう一本のナイフを取り出し荒木の心臓付近をブスッを刺した。 荒木の口からだぁ〜と血が出てきた。 江井原は荒木のトマホークを強引に奪い取り荒木の腕に向かって振り落とした。 腕が飛んだ。まるで宙をまうように。 江井原は少し血を浴びてしまった。 荒木は倒れた。もう虫の息だ。 江井原は荒木を裏返して背中に刺さったナイフを抜いた。ピッと血を払いまた腰に刺した。 「冥土の土産に教えたるわぁ。これはスローイングナイフゆうて投げ用のナイフやねん。ちなみに4本あったわぁ。あとこのトマホークもらっとくでぇってもう死んどうか。」 江井原はトマホークを背中に挿して、ライオンの鬣(たてがみ)のような髪を揺らし再び歩き出した。 (狩りの始まりやぁ!!) 青い目はさらに青さを増した。 血に飢えた青き目の野獣は今解き放たれた。この暴れ狂う野獣を誰が止めれるのか。 |
死亡 | 男子1番 荒木 孝則 | 刺殺 |
【残り19人】と井上 和男 |
ノンフレーム目次 |