■第二部■ プログラム編 - 24- ダイとカズ






<F6>
武車 健太(男子10番)は待ち合わせ場所に午後4時に着いた。
陽平たちのいる小屋はすぐに分かり、小屋のドアをノックする。
「俺だ。」
ドアがきしむような音をたて、開く。
立花 陽平(男子7番)が迎えてくれた。
健太は持ってきたトランシーバーとケータイを渡した。
井上 和男(3−1担任)はトランシーバーをその辺に置き、ケータイを持った。
「これだ。ごくろうさん。」
和男はケータイの電源をいれ、PCに繋げた。そしてまたタイピングを始める。
「先生、健ちゃんが来たぜ。そろそろ質問に答えてくれないか?」
「あたいも聞きたいことがたくさんあるよ。」
柳生 美穂(女子8番)も言った。健太も同様だった。
「分かった。こいつが終わるまでの間な。」
「あとどのくらいですか?」
「ざっと30分ぐらいでしょう。任せてください。」
「じゃあ、まず俺から。」
健太が最初だった。
「先生はどうしてBRのこととか知っているんだ?」
「これから私が言うことはあなたたちにショックを与えるかもしれませんが構いませんか?」
和男の生徒達は真剣な眼差しで見つめていた。
「そうですか・・・私は政府に通ずるもの。つまり政府関係者だ。だから知っている。他には?」
生徒達は少し動揺していたが真剣であった。そして次に美穂が口を開ける。
「そんな先生がなぜこんなことに?」
「私はあなたたちを守ろうとして参加に反対したのですがダメでして、さらに反政府と思われたからです。」
「じゃあ、次は俺からだ。大輔とはどういう関係だ?なかなか親しい関係のようだが?それにカズって人間を知っているか?あと「KILLING CUP SINGLE」ってなんだ?」
「そんな多く質問しなくても答えますよ。」
和男はPCを叩きながら答えていた。キーを叩くスピードが変わらないのがすごかった。
「カズとは私のことです。和男ですからね、そう呼ばれていたんですよ。大輔くんとは政府で知り合っているんだ。彼とはタッグを組んでいる。今までもね。」
陽平たちは驚いた。大輔までもが政府関係者とは信じがたかった。
「そんな驚くことはないですよ。彼の過去を知るものは政府の中以外にはいないよ。じゃあ彼の話をしよう。それで私の過去もついでに話せるからね。彼には苗字はないよ、私もそうだが・・・孤児なんだよ、私達は。彼と出会ったのは私が12歳のころだ。その時はノリと呼ばれていた人とタッグを組んでいたんだ。その時、彼が来たんだ。妹も一緒だったよ。彼は実の母親に捨てられたんだ。私もそうだった家が大変貧しかったので捨てられた、彼もたぶんそうだろう。ちなみに孤児院は名前だけであそこは反政府撲滅部隊「CHILDREN」の養成所だ。私もたくさんの試練に耐えたよ。彼もそうだろう。ちなみに仕事の内容はチームでする仕事以外はタブーだ。」
陽平は大輔が(夜の仕事)を語っているのを思い出し、背筋が凍った。
「彼とはすぐにチームを組むことになったんだ、ノリという人がとても彼を気に入っていてねぇ。ちなみにノリという人は「憲弘」だからノリなんだけどね。私はカズ、彼は大輔だからダイだ。私達は「CHILDREN」の中でも一番レベルの低いチームだったんだが、彼の殺人術は素晴らしいものでねぇ・・・彼が8歳のころには私達は中間レベルぐらいまでのし上がっていたよ。殺人と聞いてビックリしたかもしれないですが私達はそれが当たり前でしたからねぇ・・・政府に逆らう者は死あるのみ、七原政権の時もそうだったんだよ。私達がいたから平和に過ごせていたんだよ。部隊の生活も楽じゃないよ。ノルマを達成しないと給料もろくにもらえない。ダイは妹も養う必要があったのでけっこう無茶をしていたよ。」
陽平たちは和男が「彼」から「ダイ」に代わったのがとても新鮮に思えた。
確かに人を殺したりするのは殺伐としていていい気分ではないが先生がなにか優しい気持ちで話しているのが分かった。
「ダイは一気にTOPまでのし上がっていったよ。私達も乗り遅れないように追いかけたよ。ダイに与えられていたノルマは1ヶ月100人殺すだからね。つらかったと思うよ。でもダイは簡単にこなしていた、誰もダイの殺人術は止められない。そうも言われていた。ダイのナイフ術はもう見ただろ?ダイは銃を使わないんだ。投げナイフ。恐ろしいよ。KILLING CUPについてだね。これは撲滅部隊で行われる殺人イベントだ。政府のお偉いさん達が集まって誰が勝つのか賭けるというものだ。ちなみにこのBRもその一つだ。殺しは彼らにとってゲームにしか過ぎないらしい。その殺人イベントにダイと仲間であるノリが出場した。最後に残ったのは皮肉にもダイとノリだった。ダイはノリを殺したよ。そしてKILLING CUP最年少記録を樹立し、政府の仕事もたくさん増えたんだ。その時、今の江井原家に出会ったわけだね。ダイは神戸出身なのは分かるよね?なにせあの関西弁では丸分かりだよね。でも、ダイと妹さんを引き取った江井原家は反政府の一味だったんだ。そして殺されている。あれは2年生の始業式の日だ。陽平くんは知っているよね?」
陽平は首を縦に振り黙っていた。美穂と健太は驚きを隠せない。
正直いうと先生の言ってることも半信半疑だが大輔がそんな目にあっているとは思ってなかった。
「政府は自分達のしたことは隠ぺいするからね、分からないも当然だよ。まあこんなところかな?」
「あいつにそんな過去があったなんて・・・あたい、ちょっと可哀想に思えてくるよ。」
「すまないが陽平くん、ダイのペンダント貸してくれないか?私も見たことないんだよ。」
陽平は無言で先生に渡した。和男はパカッとペンダントを開ける。
「なるほどね・・・やっぱりダイはこの子が好きだったんだな。」
「やっぱりとは?」
「んん?聞きたいかい?ダイは私にはよくこの子との話を聞かされたものだよ。」
陽平たちは「もっと」という目をしている。人間が盛り上がる話題は恋と悪口に限る。
「ダイは彼女と出会ってからすごく変わったよ、毎日目が輝いていたよ。彼女の隣にいる時はすごく幸せそうな顔をする。彼女のパンを食べている時がとてもいい笑顔だった・・・すまない・・・これ以上はもう話したくないんだ。ダイのことを思い出したくないんだ。」
陽平たちは和男が少し震えているのが分かった。たぶん泣いているのだろう。
それもそうのはずだ。いままで共に戦い、支えあってきたのだから・・・
陽平たちはそれを察しそれ以上は聞かなかった。
和男が声をかけた。
「よぉ〜し、完成だ。あとはこいつを送るだけだ。政府のやつらも横着しないでしっかりやればいいものを。陽平くん、覚悟はできているのかい?」
「当然、これからどんな困難が待ち受けようとも俺は真正面からぶち当たる。それがこの事件で命を失ったやつらへのせめてもの手向けだと俺は考えている。健ちゃんも柳生さんも着いてきて来れるよな?」
「当たり前じゃん(じゃない)!」
和男はとても彼らが頼もしく見えた、この子たちなら未来を変えられるかもしれない。
「分かった、そのぐらいの覚悟があるならいいだろう。じゃあ行きますか。」
和男はENTERキーを押した。

<分校メインコンピュータルーム>
「山本様、コンピュータが異常を起こしました。ハックされています。73、78、ダメです。もう間に合いません・・・ダメです。」
隊員の一人が首を横に振った。
「ちっ!!やはり井上 和男は知っていたのか!先に殺しておけばよかったわぁ!お前ら!帰って総統閣下に連絡だぁ!」
「はっ!山本様はいかがいたすのでしょうか?」
「私はやつらを始末する・・・今、帰っても首をはねられるだけだ。」
「はっ!!では失礼いたします!!」
隊員はコンピュータルームから抜け出し全速力で海岸の船乗り所に向かった。
(やはり、無計画であったか・・・しかたあるまい、やつらを殺しておかなければ。)
山本は愛用のコルトガバメントを腰に挿し分校を後にした。

「よしっ、外れた。」
陽平たちはようやく首輪から解放され気分がマシになった。
「先生、本当にすごいですね。」
健太が喜びの表情で言った。
「喜ぶのはまだ早いよ、これから君たちは人を殺してまで先に進まないといけない状況があるかもしれないんだよ。」
「分かっている、でも・・・俺たちは今の政府を許せない。だから・・・俺たちは進む。どんな困難、試練が待っていようと。」
「そういうこと。」
和男はいい返事が聞こえてとても気分がマシになった。死んだダイにも報いができたということにもなるからだ。
「よぉ〜し、船場に船があると思う、それを使ってまず戻ろう。それから反政府メンバーを集めよう。私達だけではまず無理だからな。」
陽平たちと和男は舟場へと足を向けた。




    
俺は進む。この命がつきようとも!!




【残り 3人】と井上 和男


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