■第二部■ プログラム編 - 23- 誓い |
<F6> 武車 健太(男子10番)は民家地帯に来ていた。 健太は家の中を探索していた。1件の家から何か違う匂いを感じた。 恐る恐るドアを開けた。ベットの上で誰かがいる。 (生存者がいるのか?まさか!?) 健太はベットに近づき確認することにした。 とてもいい顔でベットで倒れているのは鷹山 空(女子1番)だった。 見たところもう死んでいる。胸の辺りから血が出ているのも確認した。 健太は死体の近くに長くいるのはあまりいいとは思えなかったのですぐに探索して家を出た。 疑問に思うことがあったがそれより今は無線を探すことと後悔の念でいっぱいだ。 自分で決めていたことを果たせなかった。健太はそれが悔しかった。 決めていたこと、それは立花 陽平(男子7番)にだけは人を殺させないことだった。 健太は陽平には人を殺してもらいたくなかった。その罪は自分が全部背負うつもりだった。 でも、陽平は健太が武器を所持していない時に人を殺した。 それが許せなかった。自分に怒りたくなった。何が「陽ちゃんには人を殺してもらいたくない。」だ。 自分が無力なことに初めて気付いた。とてもやるせない気持ちだった。 健太は地図を開き、次の場所を探していた。残念ながらここには無いようだ。 目に映ったには病院だった。間違いない、ここには無線があるはずだ。 決めたことはすぐ実行に移す、それが健太のいいところの一つでもあった。 健太は痛い気持ちを抑えて、病院へ走った。 (この果たせなかった罪を俺は背負い続ける。そう、陽ちゃんが生きている間ずっと支え続けよう。) それが健太の新たな誓いだった。 待ち合わせ場所である民家地帯に健太が出て行ったあとに陽平と柳生 美穂(女子8番)が現れた。 陽平はここまで美穂をおんぶして連れてきたので少し疲れていた。 適当に家を探し、部屋の中に入った。ちょうどベットが置いてあったので美穂をそこに降ろした。 陽平は床に腰を下ろし、刀を腰から抜いた。少し気持ちが落ち着いたがまだ鼓動が激しい。 なにせさっき人をこの手で殺したのだ。陽平にはあの時自分がどうして大輔を殺したのか分からなかった。 「自分は人を殺めた。」この言葉が頭のなかでぐるぐると回っている。あと少しで狂気の世界へ招待されそうになっていた。 でも美穂の姿がそれを許さない。だから陽平はそうなりそうになったら美穂を見ることになっていた。 美穂も疲れているのだろうか目をつぶって呼吸を整えていた。 窓から当たる光のスジが陽平にはとてもまぶしかった。目を細めないと周りが見えない。 その光のスジが美穂にも当たっていた。陽平にはそれがとても神々しくも思えた。 (俺は柳生さんのことをどう思っているのだろう。これは自分にしか分からないはずなのに答えがでない。どうしてだろう。) 陽平の悪い癖は考え事に浸ってしまうことだ。自分が納得いくまで思考をやめない、それが悪い癖だ。 でもいくら考えても分からないものは分からないのだ。今回はすぐに思考をやめてしまった。 美穂はごろんと寝返りをうっていた。顔が陽平のほうへ向く。いい寝顔だった。 (いくら男勝りな子でもやっぱり女の子らしいものを持っているんだな・・・) 陽平も寝顔につられたのか眠たくなってきた。日の温かい光に包まれて寝ることにした。 今は午後2時30分だった。 井上 和男(3−1担任)はノートPCの充電が終わったので待ち合わせ場所に向かうことにした。 倒れている小宮山の死体に合掌し、その場を去った。ドアがギィ〜となるのがイヤだった。 発電所をでて、和男は色々なことを考えた。 (陽平くんたちが無事なら彼は死んでいるだろう。彼はどうしているのだろう。放送がないと死人が分からないのはとても不便だ。陽平くんたちが生き残っていたのなら私は陽平くんたちに彼のことを話してやろう。そして彼が生き残っていたのならば私は彼のために死んであげよう。彼はいつも「政府を許せない。自分ひとりでも全部破壊してやる。」と。彼なら一人でもそれが可能だろう。) 和男は色々なことを考えながら民家地帯へと足をのばす。今はその途中のE6に来ていた。 途中、気の植え方が円の形をした広場があった。そこにひとりの死体を見つけた。和男はぞっとした。 その死体は刃渡り60センチはある剣を心臓に突き刺され、右腕がなかった。 でもその顔はとてもいい笑顔だった。この笑顔を見ればどんな人でも幸福にすることができるかもしれない。 その笑顔は自分にはとても見覚えのある顔だった。江井原 大輔(男子3番)それが彼の名前だ。 和男は大輔が死ぬとは思っていなかった。それは和男が一番知っていた。 そのあるはずのない現実が今ここにある。そう、陽平たちが勝利したのだ。和男は思った。 (彼らなら変えられるかもしれない。この曲がりきった世の中を、腐敗した世界を浄化できるかもしれない。) 和男は亡骸となった大輔に触れてみた。もうすっかり体温はなく、とても冷たい。大輔の昔の心のように。 そして、あるものを確認したがそれがない。とてもじゃないが大輔があれを手放すとは思えない。 和男は大輔のポケットや服のなかを何回も確認したが結局見つからなかった。 (彼があれを手放すとは思えない・・・陽平くんたちとの間で何かあったのだろうか?まあ会ってみるしかないか。) 約束の時間まで5分を切っていた。和男は急いだ。 陽平は腕時計にセットしておいた目覚まし機能で目が覚めた。 今は午後3時だ。陽平はまだ寝ている美穂をそのままに外を確認することにした。 民家地帯の入り口付近に誰かがいる。背が高くスーツを着ていて、すごく大きな銃を持っている。 「先生?せんせぇ〜、こっちです!」 陽平は向こうに聞こえるように大きなハッキリした声で叫んだ。美穂もその声で起きた。 「あんた、声でかいよ。」 「ごめん。」 先生が小屋の前に来た。何故か悲しい顔をしている。 「失礼するよ。武車くんはまだかな?」 「健ちゃんはまだです。」 和男は「そうか。」と言ったきり床に座ってノートPCを立ち上げた。PCを立ち上げた時の効果音が静かな小屋の中をこだました。 陽平は和男の横に座りPCの画面を見入るようにしていた。何かのプログラムのようだが意味が分からない。 やはり、その道を極めた者にしか分からないようだ。陽平は詮索はせず、目を閉じて静かにしていた。 和男が口を開けた。 「大輔くんを殺したのは・・・君かい?」 「あぁ、俺だ。」 「彼は強かっただろ?」 「とてつもなく、ね。あいつ3人がかりでも動じないし。」 「そうか。じゃあ、彼から何か言われなかったか?」 「生きているかもしれない海ちゃんの捜索とこのペンダントを渡すこと。分からないことはカズという人から聞けとのこと。」 「彼がそんなことを・・・。」 「あと政府をぶっ潰せとのこと。これは利害一致だから別にいいのだが。もうひとつ問いたい、先生は何者だ?」 「それについては・・・健太くんが来たら話をしよう。私の全てを教えるよ。」 和男はにっと笑い、またPCと格闘している。陽平にはただキーボードを叩いている様にしか見えなかったが。 健太は病院に事務室にいた。この島の病院は小さいらしく、診療所といったほうが適当かもしれない。 無線になりそうなものはここにあると見たので、机の中までしっかり確認した。 そして、見つけたのはトランシーバーとケータイだった。どちらも少し電池が残っていた。 (これで大丈夫かは分からないがこれぐらいしか見当たらないな。) 健太は急いで待ち合わせ場所に戻った。 よく言うじゃん「約束は破るためにある」って |
【残り 3人】と井上 和男 |
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