■第二部■ プログラム編 - 21- クラスメート






立花 陽平(男子7番)が率いるチームは無線探しに当てられていた。
無線がありそうな場所。残っているのは民家地帯のF6と病院のF5ぐらいしかない。
商店というのもあったがそれは確認済みだ。あるのは川村と山下の死体だけだ。
陽平、
武車 健太(男子10番)柳生 美穂(女子8番)はその現場を見ている。
無残にも斬り刻まれた後だった。
今はD7あたりにある道を歩いているところだ。何もないただ一本の道だった。
成本 愛子(女子2番)も含めて4人で歩いているのだが女子の愛子と美穂が前に、陽平と健太が後ろにという位置だ。
同性同士だからだかけっこう会話が弾んでいる。とても悪い状況とは思えない。

健太と陽平は前の女子陣に聞こえないように声を小さくして話していた。
「あのさぁ、陽ちゃん。」
「どうした?健ちゃん?」
「クラスで誰がかわいいと思う?」
陽平は少し驚いた。いつもはそんな質問をしない健太がそんな話を持ちかけてきた。
そんな話も嫌いではない。修学旅行が普通に行われればそんな話もしていただろう。
「う〜ん・・・やっぱ、総合的には和久井さんだろうな。でも・・・」
「でも?」
(柳生さんが気になる)と言いそうになったがなんとか堪えた。
「いや、なんでも。健ちゃんは?」
「俺?俺はねぇ、冬野さんだね。すごく優しいじゃん。」
優しいじゃんのところで健太が悲しい顔をしていた。彼女はもうこの世にはいない。
「そうだな・・・保健委員か。」
「俺、実はさ。あいつのことが好きでさぁ・・・コクっちゃうつもりだったんだ、修学旅行で。」
陽平は動揺を隠せなかった。健太がそんな思いを秘めていたとは思ってもみなかった。
すごく酷な話だと思った。彼女はとっくに死んでいる。
「そうだったのか・・・」
「そうだよ、だから許せねぇ。あいつらが憎い。だから俺は・・・」
「分かった・・・それ以上言うな。」

愛子と美穂も同様に男子陣に聞こえないように話していた。
「柳生さんは好きな人とかいるの?」
愛子の唐突な質問に美穂はビックリしてしまった。
(成本さんは案外大胆な人なのだなぁ。)
「で、いるの?いないの?」
迫り来る愛子に答えるしか余地は無さそうだった。
「べ、べつにいないよ・・・どうして?」
「いやぁ・・・実はわたしは好きな人がいてね。柳生さんはどうかな?と思って。」
美穂はあまりクラスメートとは話をしないタイプだったので戸惑いを隠せないでいた。
普通の女の子のしゃべり方も分からない。今の時代に「あたい」なんていう代名詞は使わない。
相変わらずの愛子のマシンガントークに美穂もたじたじだった。
「わたし、委員長のことが好きなんだぁ。かっこいいよねぇ。そう思わない?」
と言われても美穂はどう答えていいのか分からない。
「そ、そうかな?あた、わたしには分からないなぁ。」
「ええ!?委員長ってクラスですごい人気だよ。背が高くて、顔も整っていて、誠実で、クラス2位の頭脳とTOPクラスの体育センス。
どこも欠点がないよねぇ。武車くんもなかなかだけど委員長には・・・だよねぇ。」
確かにその通りだ。それは美穂も認めていた。でもそこまで意識したことがなかった。
ちなみにクラス1位の頭脳は小宮山、3位はなぜか
江井原 大輔(男子3番)だ。
「わたし、これが終わったら告白するんだぁ。柳生さんも応援してくれるかな?」
美穂は初めて味わう胸の痛みを感じた。ズキッといった感じのものだ。
「う、うん。」

(もうすぐやな。さぁ、あと50メートルくらいや)
E7を北に向かう4つの点を確認したあと探知機はそこに捨てた。大輔が今いるのは木が何本か立っていて死角が多いE6の平地にいた。
そろそろ声が聞こえだした。あと30メートルといったところだ。腰にしてある最後のスローイングナイフに手をかける。
(これでまず一人や!)
大輔は渾身の力で最初に見えた影の心臓に投げつけた。

美穂はいきなり話が途切れた愛子を不思議に思い様子を確認した。
ナイフが心臓に思い切り刺さっている。口から血もにじみ出ている。
「柳生さん・・・わたし、ダメみたい。」
急に力が抜けたようにバタッと愛子が倒れた。もう虫の息である。
「立花!武車!伏せろ!」
陽平と健太は状況が把握できず戸惑っていた。
「成本さんがやられた。江井原の仕業だ、たぶん。」
美穂と陽平は鞘から刀を抜き、健太はベレッタをスライドさせて弾をセットする。
(あと3発しかないんだ。慎重に使わないと)
(成本さん、ごめんなさい。あたいがついていながらも・・・)
「大輔!出て来い!」
陽平は思い切り叫んだ。木の陰から人がでてくる。
「はいは〜い、まあそう熱くならんと・・・ショーこれからやで。」
出てきた少年を見て3人は驚いた。髪が真っ白になっているのだ。
E6はちょうど木が円のように立ていて広くなっているところなので戦うには十分な広さだった。
健太は少し前方を確認した。愛子が胸にナイフが刺さって死んでいた。
(どうしてだ?あの距離から?まさか?)
「大輔!どうしてだ?何故、殺したんだ!」
「だから、そんな大きい声出さんでも聞こえるわぁ。そんなもん、優勝するからに決まっとうやん。」
「あんた、何人殺した?」
美穂はなんとなく聞いてみた。別に意味はない。
「んん?そやなぁ、ざっと8人ぐらいやろうか?そんなん数えてへんわぁ。」
大輔はいつもの笑顔で返した。
健太は不意打ちで1発発砲した。
大輔は何事もないようかのようにかわした。
「そんな手ぇ振るえとったらあたらんでぇ・・・あほやなぁ。」
「なんだと!?」
「健ちゃん、落ち着け!熱くなったら大輔の思う壺だ。」
「そうだよ。」
健太は美穂と陽平に言われて少し落ち着きを取り戻した。
「こうゆうもんは落ち着いてからやるもんやでぇ・・・しっかりせぇや。あんたらチームなんやろ?」
陽平と美穂は自分達の距離を近づけ並ぶように立ち、刀をしっかり構えた。健太はその後ろに隠れ銃をしっかり構えている。
大輔は肩にかけていたP−90を取り右手に持った。
風が一つ通り抜けた。いやな静けさだった。
「ほな、行くでぇ!!!」
大輔はトリガーを引いた。




          
数々の思い出も走馬灯のように消えてゆくのだ。





 死亡 女子2番 成本 愛子
刺殺



【残り 4人】と井上 和男


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