■第二部■ プログラム編 - 18- 青い空・後編






「あの事件・・・思い出したくないよね?」
鷹山 空(女子1番)は心配そうに江井原 大輔(男子3番)の顔色を伺っている。
大輔は首を横にふり答えた。
「別にええんや。その後はええことばっかやったし。」



<中2の始業式の日>
「やめて!殺すなら私達だけでいいでしょ!」
「だめだ!反政府の一味である江井原家の人間すべてを殺せといわれている。」
グシャ!ドスッ!ジュバッ!
政府の人間達の軍刀がお袋と親父のけい動脈を切り裂き、シュバーと音をたてて血が噴水のように出ている。辺りはもう血の海だ。
「やめろ!殺すなら海より先にわいからや。」
「だめだ!お前は江井原家の人間ではない。そこをどけ!!」
軍刀が大輔の目を切った。急に何も見えなくなった。
「う、海!逃げるんや!はよぅ!!」
「お兄ちゃん!!」
ドサッ!
「う、海!?どないしたんや?返事せえ!!」
「いくぞ!我々の任務は終わった。」
「う、う、うわぁぁぁ!」

大輔は目を覚ました。といっても何故か目が見えない。
開けたつもりなのだが視界が遮られている。
真っ暗だった。大輔は困惑した。
(何で見えへんのや。しゃあない誰か呼ぼう。)
「海ぃ〜おるかぁ?返事してくれぇ。」
返事はなかった。おかしい。今の時間ならとっくに起きている時間なのに。
その時ツンと鼻を挿す匂いがした。いつも嗅いでいる匂いだった。
(まさか!?)
そう血のにおいだった。大輔には嗅ぎ慣れた匂いだ。
どんどん意識がはっきりしてくるにつれ昨日のことを思い出した。
両親が目の前で首から血をだして倒れていくのを。自分の視界が奪われたことも。
(あかん、誰か呼ばな。)
大輔は目が見えなくてどこになにがあるのかまったく分からなかった。
玄関から声がするのが分かった。
「大輔く〜ん、学校遅れちゃうよぉ!今日から始業式なんだから。」
大輔は思い切り叫んだ。
「ごめん!今ちょっと風気味やから今日は休むわぁ!」
心配をかけたくなかった。それだけだった。
「またぁ、そんなこと言ってぇ。入るよ。」
「あかん!入ったら!」
言うのが少し遅かった。空は玄関のドアを開けていた。
空はすごく震えていた。
「い、いやあぁぁぁぁ!!」
大輔は軽く舌打ちをして言った。
「警察と救急呼んでくれ。頼む。」
空はそれ聞いてすぐさま連絡を取りに行った。
大輔は意識をまた失って倒れた。



「あの後、わいは病院のベットの上やったなぁ。」
「そうだよ。大変だったよねぇ。結局、海ちゃんは見つからなかったよね。」
海の死体は消えていたらしい。大輔は思い出して少し恐怖を覚えた。
日常としてあったものがいきなりなくなる。それは大輔が初めて味わった恐怖だった。
空はより強く抱きしめられて少し苦しかった。
「痛いよ、大輔くん。」
「悪ぃ、ほんまちょっとだけ怖なった。」
空はいつも思っていた。恐怖を取り払ってあげたいと。
自分はなにもできないかもしれないけど傍にいてあげるくらいならできると思った。
でも、いつも逆だった。助けてもらっていた。

私はお母さんとよくケンカして家を出て大輔くんの家に行ったこともあった。
大輔くんはいつも笑顔で迎えてくれた。一緒に寝たこともあった(もちろん「いけないこと」はしてないけど)
その時は胸枕で抱きしめながら寝てくれた。とても温かかった。
でも大輔くんは変な子だった。寝るときはいつも上は脱ぐらしく下はジーパン姿だった。半裸といわれる状態だった。
体温を感じながら寝る。遠い昔、お父さんと寝たときみたいで安心できた。
お父さんとお母さんが離婚してそういうことがなかったからだろうか?離婚したのは確か私が5歳のころだ。
もうほとんど記憶にない。人間の記憶とはもろいものだ。
大輔くんはその時はいつも私より早く起きて「おはようのKISS」をしてくれる(しかも真正面から)
初めは驚いたけどもういつものことだから慣れてきている。
そして朝ごはんも一緒に食べた。
大輔くんは和食好きなのか朝はご飯、味噌汁、焼き魚、野菜のおひたしだった。
彼曰く「日本人の朝はこれに限るでぇ。一番栄養が偏らんでええねんで。パンばっか食うとったらバランスが悪い。たまにはこんなんもええやろ?」
大輔くんの料理はなかなかのもので私の口にも合った。
「おいしいね。」って私が言うと、「そうかよかったわぁ。」と笑顔で返してくる。
私はその笑顔が一番安心できた。いつも笑顔で振舞ってくれていた。

「どないしたん?ぼぉ〜として。」
空ははっとした表情で我に返った。
「うんん、なんでもないよ。」
「じゃあ、わいの話も聞いてくれへんかな?実は隠してたこといっぱいあんねん。」



「ごめんなさい。大輔、海・・・」
若い女性が大輔に話しかけてくる。
「何言ってるの?お母さん・・・」
女性は屈強な男達に4歳の大輔と1歳の海を預けて走り去っていった。
「待ってや・・・お母さん、おかあさぁぁぁん!!」
「うるさい!お前と妹はやつに捨てられたんだ!あきらめろ。」
「いやや。待って、待ってやぁ!!」
大輔は引きずられながら屈強な男達に連れ去られてしまった。

<輸送車の中>
大輔は泣き疲れて寝てしまったのか車の中にいた。横には海がいい寝息を立てながら寝ている。
どうやら後ろの席に座らされたらしい。前にはさっきの男と助手席に中学生ぐらいの男が座っている。
「わいは何でここに?お母さんは?」
「まだ言ってるぜ、カズ。お前は捨てられたたんだ実の母親になぁ!」
「ノリさん、そこまで言わなくても・・・まだ4歳ですよ。」
「こういうのは最初から突きつけておくのが一番なんだよ。」
どうやらさっきの男はノリ、中学生ぐらいの男はカズというらしい。
「何処行くの?」
「おっ、もうあきらめたか?意外とスジがあるじゃねぇか。孤児院だよ、政府公認の。黙っていろ、後で詳しく教えてやる。」

<政府の孤児院>
「ここがこれからお前が住む孤児院だ、ちなみに俺らもここに住んでいる。俺はノリ、こいつはカズ。」
カズと呼ばれた男は軽く会釈した。
「わいは・・・大輔・・・こっちは海。」
海はまだハイハイぐらいしかできない赤ん坊だったのでかごの中に入っていた。
「自己紹介できるったぁ、なかなか世間を知ってるやつじゃねぇか。大輔と海だな。海のほうはしっかり孤児院のほうが責任持って面倒見てくれるみたいだぜ。でも、お前は別だ!」
大輔はびびっていた。いきなり連れて来られて気が動転していた。捨てられたと思った後、また自分にはしなければならないらしい。
「タダでは飯は食えねえぜ。お前はさらに海の分まで稼がなきゃならねぇ。意味分かるなぁ?」
大輔にはちょっと理解できなかったみたいだ。?という顔をしている。
「つまり私達と働けということです。」
カズと呼ばれていた男が言った。
大輔は全てを諦めた。自分で生きることを諦めた。でも自分には守るものが一つあった。
「それで海が救えるんやったら安いもんや。やったろうやないけ。」
「やっぱいいスジしてるぜ。これで少しは楽になりそうだな、カズ。」
「そうですね、でもあまりいじめない方がいいですよ。」
「分かってるってなんせ未来のノリ2世にするつもりだからなぁ。」
2人の笑い声が聞こえた。なかなか豪快に笑う二人だった。なぜだか分からなかったが大輔は少し落ち着けた。



「そんなことがあったんだ。」
「そうや、わいは実の母親に捨てられた孤児やってん・・・そんで10歳の時今の江井原家に引き取られたんや海と一緒になぁ。
江井原家の人は女の子がほしかったみたいでわいはあんまええ扱いはされんかったんや。いつもいっとう仕事は孤児院での仕事や。
未だにしてんのは恩を返すためやねん。」
「大輔くんは偉いんだね。」
「そんなことあらへん。当然ことや。」
(そんな生ぬるいもんやなかった。わいはこの世の地獄を見たんや。色々やらされた。勉強や戦闘の技術も教えられた。でも主な仕事は殺人や。反政府撲滅ためや。初めて人を殺したのは5才の時や。ショタコン女の夜の相手にして殺した。向こうは満足な顔で死んどったわ。わいはそんなやつに「初めて」をさせられた。でも海を養うにはそうするしかなかった。なんでもして働くしかなかった。どんどん慣れもした。人を殺すのに躊躇もせんようになっとった。そして自分の能力にも気付いた。戦闘だけは負けへん、それだけやった。12歳の「KILLING CUP SINGLE」でわいは仲間であるノリを殺してみごと1位をとった。ノリは最後「強くなった。お前はやっぱスジがよかった。」ゆうてくれた。わいは反政府撲滅部隊「CHILDREN」のエースになっとった、カズと一緒に。恩を返す?そんわけあるかい。わいは2つの家族を失った、政府のせいでなぁ。だから復讐する。でもわいはこの子がおる限りそれはできひんみたい
や。なぁ空ちゃん?)
大輔は空を柔らかい表情で見つめた。空も意識しているのか鼓動がさらに激しくなっている。
「ちょっと暑いね。上脱ぐね。」
空は立ち上がり大輔からもらった学ランを自分のそばに置いた。
「ついでにもうひとつ脱げば?」
「もう、大輔くんのえっちぃ〜。」
「なにゆうてんねん。空ちゃん、いつも露出度高い服着てるくせにぃ。」
「それは・・・」
大輔くんの気を引きたいからとはいえない。空は返答に困ってしまった。
空は恐れていた。大輔が他の女の子に惹かれないか、それがいつも邪魔していた。だから何故かそういう服を着ることが多かった。
(自分だけをその青い目で見て欲しい、自分が傍にいるから)それが空の一途な願いだった。それ以外は何も望まなかった。
「大輔くんが・・・・・・」
「わいはそんな服着んでも空ちゃんしか見てへんかったでぇ。」
空はビックリしてしまった。自分が言おうとした問いの返答がいきなり返ってきたからだ。
最後の言葉にしようと思っていた。もうこの世に未練はない、その返答を聞けただけで。
ここで命を絶つのは分かっていた。仕方のないことだった。空は大輔には生き残って復讐を果たして欲しいと願った。
でも返答は違っていた。
「わいと・・・心中してくれへんか?」
上空には雲ひとつない青い空が広がっていた。




        
わいはこの人生にあきあきなんや。




【残り 6人】と井上 和男


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