■第二部■ プログラム編 - 15 - 現実






「どないしたん、和久井はん?わいの顔になんかついとんか?」
江井原 大輔(男子3番)和久井 優子(女子9番)が呆然とした顔で見られたので問うてみた。
優子からの返事はない。あまりに突然の訪問者だったため頭がすぐに回らなかったのだ。
しかし、突然の訪問者の姿は何度見てもおかしいと思えた。
白と銀の間ぐらい色の髪、青く澄んだ目、目の下のペイント、カッターシャツ1枚でさらにはボタンも止めていないので胸板やお腹が丸見えだった。
胸板も腹筋もしっかりしている様子でズボンもずらし気味なのでもう少しで・・・というところだ。
だが、一定の人物を特定する決定的なものがあった。「関西弁」だ。
クラスメートで唯一「関西弁」をしゃべるのは「やつ」しかいない。クラスの遅刻王「江井原」だ。
「いや、別に何もついてないけど。突然声をかけられてビックリしたの。」
「ほんまか?悪ぃなぁ。」
「うんん、別にいいよ。気にしてないから。」
あまりに普通に振舞ってしてしまったので間の抜けた会話になってしまった。
大輔も驚いた様子だった。普通の返答に少し笑っていた。
そして、こう切り出した。
「残念やったなぁ・・・五十嵐はハズレやで。」
いきなり真剣な顔になった。
優子は意味が分からなかった。何がハズレなのだろう?
その意味を確認することにした。
「え!?どういうこと?」
「んん?理解でけへんかったか?悪ぃ悪ぃ。つまり山本(五十嵐の父)が和久井はんの親父さんを殺したんとちゃうゆうことや。」
「あんた何処まで聞いてたの!?変な冗談言わないで!」
優子は動揺を隠せなかった。もし彼の言うことが本当なら復讐ではなく単なる殺人となってしまうからだ。
少し冷や汗がでた。まさかここまで聞かれているとは思わなかったのもあるが。
「冗談もほどほどにしないと命が短くなるよ。」
優子は銃を構えた。でも大輔は淡々していた。
「確か和久井はんの親父さんが殺されたのは確か・・・3年前やったはずや。あの日まだ覚えとるわぁ、確か12月8日やったな。」
当たっていた。まさかとは思ったが本当だった。そう優子の父が殺されたのは3年前の12月8日だった。
「どうしてあんたが知ってるのよ!?」
自分の正直な気持ちだった。自分の思っていたことが崩れそうで恐怖を覚えた。
優子は大輔の胸ぐらを掴み、銃をこめかみに当てた。
「まあまあ、そんな熱くならんでもええやん。親父さんがどうなったんか聞き出したいんやろ?」
その言葉を聞き、胸ぐらから手を離した。銃は構えたままだが。
(知りたい・・・真実を・・・お父さんがどうしてああなったのかを)
「5分くらいで終わるさかい、まあ楽に聞けばええやん。」



「き、貴様ぁ!なんてことしてくれたんだ!」
指揮官らしき人間が和久井の父・幹夫に叫んだ。
「はっ・・・って何かあったのでしょうか?」
「何かあったではない!貴様、重要機密を漏らしたなぁ!!」
幹夫は焦った・・・そう自分はタナカ(現政府)の重要機密を他の「政権を狙っている」グループに多額の金で売ったのだった。
仕方のないことだった。自分には金が必要だった。単身赴任となってから賭け事に溺れ多額の借金を抱えていたからだ。
嫁や娘に会わせる顔がなくなると思ったからだった。
「貴様を我がタナカのルールに従い処刑に処する。」
指揮官は腰に挿していた軍刀を容赦なく振り下ろした。
しかし幹夫はデスクに隠していた銃を抜き発砲した。
見事にお腹に命中した。
指揮官がうずくまっている内に幹夫は逃げ出した。
指揮官はトランシーバーで応援を要請した。
「工作部隊の和久井 幹夫がルールに反した。よって反政府と見なす。反政府撲滅部隊に応援を要請する。」

誰かが部屋に来る。足音で分かった。
そしてドアがノックされた。ドアが開いた。
「なんかあったん?」
まだ幼さが残っている顔立ちをした少年がドアを開けた。
「おお、お前かぁ。最近仕事多くて困ってないか?まあ「KILLING CUP SINGLE」で優勝したんだもんな、当然か。」
「なんでもええから、はよう用件ゆうてや。昨日も仕事してて疲れてんねん。」
「んん?ああ悪い悪い。カズはいるか?」
「カズ〜。なんか来とぉでぇ〜。」
部屋の置くからカズと呼ばれた人物が顔を出した。
「なにかあったのか?」
「和久井 幹夫が逃げ出したんだとさ。さっさと殺って来いということだろ。」
「それは本当か!?どうして?」
「俺っちにはさっぱり分かんねぇ。それにしてもまだ反政府撲滅部隊の「CHILDREN」にいるんだ?」
「まだこの子がいるからな。」
カズと呼ばれている人物はまだ幼さが残っている顔立ちをした少年の頭を撫でながら言った。
「いつまでも子供扱いせんといてやぁ。これでも。」
「<KILLING CUP SINGLE優勝者なんやで>だろ?」
「分かればええや。ほな、いこか。」
「ダイは準備が速いな。よぉ〜し、いくぞ。」

ダイとカズはバイクで二人乗りをしていた。
「五十嵐のおっさんがゆうには駅のほうに行ったみたいやでぇ。」
「そうか、おっ見えてきたぞ。」
駅が見えてきたころには夕方だった。夕方の駅は人が少なかったのですぐに幹夫を見つけることができた。うまく変装していたが様子で分かった。
「そこのおっさん!」
幹夫は振り返って呼び主を探した。中学生くらいの少年と若い男が立っていた。
「何かな?ぼうや?おじさん、急いでいるんだけど。」
「まあ遠慮せんとゆっくりしていきぃや。」
少年はナイフを両手に持ち、隣の男は銃を構えている。
しまったと思ったときにはもう遅かった。弾丸はお腹を貫き、ナイフは心臓に2本とも刺さっていた。
「はい、ミッション完了。疲れたなぁ。カズ、甘〜いチョコおごってや。」
「別にいいけど・・・君は欲が薄いね、それだけでいいの?」
「かまへん、わいは・・・なんでもないわ、やっぱ。」



「ちゅうことやな。つまり、わいが和久井はんの親父さんを殺したんや。親父さん倒れてからも「優子」ってずぅ〜とゆうとったなぁ。ちなみに五十嵐はんの親父さんは居場所教えただけやから実行犯はわいとカズやな。」
優子は完全に気付いた。自分は復讐する相手を間違えた。
五十嵐 慶吾(男子2番)は関係なかったのだ。
そして復讐する相手は目の前にいる。その相手はニコニコ笑っている。
(そんな事実があったなんて・・・こいつは政府関係者だっていうの?)
まだ全てを信じることはできなかった。はっきりしたのは大輔が政府関係者で復讐相手だということだった。
優子はなんの躊躇もなく銃を発砲した。
(殺す、殺す殺す殺す殺す!)
大輔は発砲を予測していたため何とか逃げ切った。まさに紙一重だった。
「女相手にすんのはあんま好きちゃうけどやるしかないか。秘密もバレたことやし。」
大輔は腰に挿していた剣を抜き優子に投げつけた。
優子は剣を避けることにいっぱいいっぱいだった。まさか剣を投げるとは思わなかったからだ。
しかし優子はチャンスだと思った。見たところ剣とナイフ2本しか見当たらなかったので大輔の残りはナイフ2本だけだ。ナイフの2本ぐらいは避ける自信はあった。
例え当たっても応戦できるだけの精神力は持っているつもりだった。
そして優子は体制を立て直し銃を8連発発砲した。トリガーをものすごい速さでひいた。
大輔の傷は軽いものだった。弾丸が体をかすっていただけだった。軽いといっても血はそこそこでていた。
優子は我にかえった時体が締め付けられるような激痛を感じた。
心臓にナイフが2本刺さっていた。心臓から血があふれ出すのが自分でも分かった。
優子は意識を失った。2度と戻らないのも分かった。
大輔は刺さったナイフを抜き、血を掃い腰に挿した。
(歴史は繰り返されるゆうことやな。死に方もまったく一緒や。)
遠くのほうから人の声が聞こえた。
(誰か来よる。ここはずらかろかぁ。)
大輔は投げた剣と五十嵐が腰に挿していた軍用ナイフと握っていたP−90を奪って声とは反対側に走った。
そして転がっている死体の3人(二宮妹、五十嵐、和久井)を見て思った。
(哀れやな、ほんまに哀れや。)




        
知らないほうが幸せなこともある


死亡 女子9番 和久井 優子 刺殺


【残り 6人】と井上 和男


ノンフレーム目次