プログラム編 7
― 仲間と信頼 ―
<夢の海岸>
木佐貫 歩(男子5番)
は自分の腕時計を見た。現在午後9時32分。
あゆむは
青柳 悠斗(男子1番)小早川 良太(男子6番)と合流してからも中野 歩(女子8番)を待っていた。
正直あゆむは前回の放送の時あゆみの名前が呼ばれるのではないかとハラハラしていたが無事呼ばれることはなかった。
しかし、不安は募るばかりだ。もうあたりも暗くなり月明かりだけが頼りだ。まだあゆみとは合流できていない。
あゆむは現在海岸にあった海の家の中で休憩中だ。悠斗と良太はとりあえず仮眠を取っている。あゆむは見張りだ。
今日は月が特別綺麗に見えた。
白い砂浜、夜の暗闇を吸い込んだように暗い海、そして青白くそれらを照らす月明かり。
この風景は神秘的にも思えた。そんな風景につられてかあゆむは海の家から10メートルほど離れてそこで大きなあくびをした。
「ふあぁぁ〜」というあゆむの声は暗闇の海の中に吸い込まれていった。
(あゆみ、何かあったのか?どうしてここに来てくれないんだ。俺達の約束の場所は海だったはずだ。)
あゆむとあゆみにとって海とは特別な場所であった。
(俺らが初めて口付けを交わした場所、俺らが本当に・・・)
あゆむは右の拳をグッと握った。強くにぎりすぎてつめがくいこんで血が出てきた。この風景に似合わない赤い血だ。
その手を少し眺めた後、海まで行って手を浸した。すごく沁みる、血が暗闇の海に吸い込まれていく。
(暗闇は何でも吸い込んでしまう。何故だ?俺も心の闇に少しずつだが吸い込まれていく。あゆみを探したくて身体が動き出そうとする。
でも心がそれを許さない、俺は今仲間と行動しているんだ。俺一人の独断で動くわけにはいかない。身体と心が葛藤している。)
あゆむは海の家から離れすぎたのに気付いたので戻った。悠斗が起きていたらしく海の家のベンチで寝そべっている。
「あゆむぅ〜、そんなに離れちゃ見張りの意味ねぇ〜。」
「悪ぃ、ちょっとな。」
「日光浴もいいが月光浴も悪くないかもぉ、神秘的ってやつぅ?」
「ははは、この期に及んでも相変わらずユルユルなやつだな、お前は。」
「まぁねぇ、俺ってマイペ〜スな男じゃん?」
「確かにな。まあそのほうがお前らしいよ。」
「はは〜ん、さてはあゆみんのこと考えてただろぉ。愛は友情より強しってやつぅ?」
「確かに考えてはいたが友情より強いとは言えないな。まあ五分五分ってところだな。」
「あぁそ、早く会えればいいな。あゆみんもそう思ってるんじゃねぇの。」
「そうだといいがな。それよりこれからどうするかだ。」
「なんか秘策でもあんの?あぁ!?もしかして俺達が生き残った後俺ら抹殺する気ぃ?」
「バカ!んなわけねぇだろ。場を読め、場を。」
「悪ぃ悪ぃ。で、一体どうするんだ?」
悠斗の表情が真剣になった。悠斗は切り替えがとても上手く、やる時はやる真剣にするタイプだ。
あゆむが(いつもこうならないいんだけどな。)というのはまだ伝わってないらしい。
「とりあえず
福田 聡明(男子9番)だ。あいつに意見を聞くのが一番いいと思う。名前どおり<聡明>な男だからな。」
「じゃあ福田がこのプログラムにのっていたらどうするつもりだ?まあ脱出とか無理に決まってるんだがな。」
「その時は・・・」
「やっぱ無理だな。でも俺は最後まであゆむの隣。あっ、隣はあゆみんだな。後ろからお前のこと見てやる、最期の時が訪れるまで、な」
「そんなこと言うな!俺達は生き残る、絶対だ!」
「分かったよ。そう熱くなるな、良太が起きちまう。」
良太の様子を窺った。いい寝息をたてている。
「ありがとな、悠斗。」
「なぁにぃ、俺ら仲間じゃんっ。お互いきょ〜りょくしないとねぇ。」
いつもの悠斗に戻った。相変わらず切り替えのうまいやつだ。
あゆむが悠斗の後ろを見た時、人の影がこちらに向かってくるのを確認した。
(まさか!?)
あゆむはベンチから立ち上がると思い切り影に向かって走っていった。
「おい、あゆむ。何があったんだ!?」
あゆむは返事をせずにそのまま向かっていってしまった。
「くそっ、あのバカ!」
悠斗は後を追った。

(あれは・・・あゆむ!?)
あゆみもあゆむに気付いて走っていった。
「あゆむ?あゆむなのね!」
向こうの影が答える。
「ああ!そうだ、あゆむだ!」
そのまま二人は抱き合った。
「大丈夫だったか?」
「怖かった。もう離れ離れはいや!」
「ああ、離しはしないさ。」
あゆむはより一層強く抱いた。
その様子を悠斗は遠くから見つめるしかできなかった。
(やっぱ愛優先かぁ・・・まあいいけどねぇ。)
月明かりの下で抱き合う二人、二人を祝うように波も大きく唸った。



<D6の小屋(現在午後11時02分)>
「あっ、あっ。」
「変な声出すな、何かと間違えられるだろう。」
「だって、気持ちいいもんすんごく。あ〜死んじゃう〜。」
「だからやめろ。」
その声を外から聞いている人物がいた。
若村 珠実(女子13番)剣道部の主将で男子でも勝てる人物は大神中学にはいない最強の女子中学生だ。
全国大会にも幾度か出場経験もある、まさに剣道のエキスパートだ。
学力のほうも悪くない、バランスの取れた人間である。
しかし、そんな彼女にはちょっとした欠陥がある。
「戦闘欲」が他の人間より少し強いのだ。
彼女には「戦いたい」という欲求が他の人間より強いのだ。
だからこんな状態でも「戦いたい」というのはある。
だが彼女は殺人を犯す気は全くない、むしろしたくないのだ。
そこのところはわきまえているのだがその欲求を抑えることができないのだ。
(この小屋には男と女が1人ずついるがどちらかがものすごい威圧感を放っている・・・誰なんだろう・・・戦いたい。)
珠実はついに抑えきれなくなりドアを無理やりこじ開けた。
「たのもう!!」
中にいた2人は急な出来事に戸惑いを隠せないようだ。
男の方が女の脚に触れている・・・珠実は分かった。
「もしかしてあなたたち。」
「あああああ、誤解するなよ。俺はただ結衣が脚が痛いというからマッサージしてただけだぞ!結衣が色っぽい声出すから変な目されたじゃんかぁ。」
「だって氷神くんのマッサージが上手いからつい声が出ちゃうのよ。最近運動不足だからすぐに脚がむくんじゃって。」
二人が楽しそうに会話をするのを見て珠実は少し戸惑った。
「赤田さんよね?そこの人は誰?クラスの子じゃないみたいだけど。」
「この人は氷神 純也くん、この事件に巻き込まれたみたいなの。」
「そういうこと、ちなみに結衣とはお昼に出会った。」
「そうなの。」
珠実の動きが変になった。
するといきなり純也に襲い掛かった。
キーンという金属音が響いた。
結衣は何が起こったのかさっぱり分からなかった。
純也が珠実の刀を自分の剣で受け止めていた。
「若村さん、一体。」
「黙っていて、私はこの男に用事があるんだから。」
「いきなり攻撃しやがって、何だってんだ。」
「表へ出なさい、話はそれからよ。」
珠実はすばやく外で出て行った。純也もそれに続いて出て行った。
結衣は戸惑いを隠せないといった表情で小屋をでた。
2人とも外の広場で対峙していた。どちらも柄に手を添えている。
「お前何者だ?何が目的だ。」
「私は若村 珠実。あなたと手合わせ願いたい、あなたが強いっていうのは分かってるんだから。」
「どうして分かる?」
「生まれつき勘だけは鋭いし外れたこともない。私はただ強い人間と戦いたいだけ。」
「ダメだ。結衣がそれを許さない、殺しちゃいけないって言われている。」
「分かった。じゃあ武器を赤田さんに渡して、武器はその棒切れでいいでしょ。」
「稽古ってわけ?剣道か何かしてるのか?」
「剣道よ。さあ準備しましょう。」
「強引な女だなぁ。」
「五月蝿い、さっさと準備しなさい。」
2人は武器を結衣に渡し棒切れを握って対峙した。
結衣は二人を止めなかった。
放心状態であったこともあるが、なによりも純也の顔が生き生きとしていたのが気がかりだった。
2人とも棒切れを使用しているので死に至るような怪我は考えられないというのも理由の一つでもある。
「ちょっと待った。どうせなら何か賭けようぜ、面白くないじゃん。」
「私は本気のあなたと戦うことができればそれでいい、本気を出しなさい。」
「じゃあ俺が<イッポン>を10回あんたから取ったらこのプログラムの間だけ俺の言うこと聞くっていうのはどう?」
「ふふふ、私が勝つからそれでもいいよ。中学生だから突きはなしよ。じゃあこっちからいくわよ!」
珠実が最初の足を蹴った。
しかし、右手の甲に痛みを覚えた。一度止まって見ると赤く腫れて少し血がにじみ出ていた。
一方の純也はとうに珠実の背中側にいた。
純也が棒切れでこちらを指して言う。
「遅い、話にならんな。」
「ひ、氷神くん!若村さんの手が・・・。」
結衣は顔は青ざめている。
「だってこいつが本気だせっていうもん。」
さらに青ざめているのは珠実の方だった。
純也の顔には複数の傷があり、片目も閉じている状態だった。
この余裕そうな姿に珠実は屈辱を感じ、心臓が溶けそうになった。
(こんなやつに・・・。)
珠実は構えを変える。剣道のような綺麗な構えではない、どこかの流派だ。
純也はそれに気付いて
「二天流、宮本武蔵か。あれは普通の人間じゃできない、特に女なんて無理だ。」
「五月蝿い、無駄口聞かないでかかってきなさい。」
純也も構えを取る、といってもどこにでも隙がありそうな構えだ。
純也が最初の足を蹴った。
珠実は一撃に気を集中させた。こちらに向かってくるのが分かる。
いままで相手にしたことがないような速さ、通常の人間の3倍ぐらいの速さにも見える。
(そこ!)
珠実は胴に狙いを定めた。しかし純也はそこにはいない。
(え?何処?)
またも右手に痛みを覚えた。さっきよりひどい有様だ。
(どうして・・・そんな・・・ありえるはずがない・・・こんなデタラメなこと)
純也はまたも珠実の後ろ側にいた。こちらを向いてにやっと笑う。
「遅い、話にならん。あと8本だ。」
「どうして!どうしてなのよ!」
珠実は涙を浮かべながら叫んだ。
「はぁ?お前何いっ」
「おかしい!あんた何者なのよ!人間とは思えない動き、ありえない!」
頭を押さえて横に振った。
「ははは、当たり前だ。俺は普通の人間とは違う、くっ、」
純也は何か言おうとしたみたいだが急に倒れた。
結衣が純也に近寄って、倒れた純也を診た。
「すごい熱、少し痙攣も起こしてる。若村さん!早く小屋のベットに連れて行くから手伝って!」
珠実は放心状態だった。
「早くして!」
珠実は正気に戻ったのかすぐに近寄り2人がかりで小屋に運んだ。
(氷神くんどうしちゃったの?こんないきなり。)
結衣は不安を隠しきれなかった。
勝負はまだついてない、まだ。  
by 若村 珠実

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