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小幡 潤子(女子3番)はB6まで来ていた。 水泳部に所属しているので体力には多少自信があった。 しかし、極度の緊張と恐怖のせいか体力の消耗が激しかった。 少し休憩しようと思ってB6の平野にある簡単な壁の後ろに隠れた。 いつ襲撃されるか分からない。そう思うと隠れずにはいられなかった。 潤子は勉強も運動も可もなく不可もなくといったところで目立った長所はなかった。 よって、水泳をやっているのは得意だからというわけではない。 でも、水泳をやっているのには理由がある。 実は潤子の父は漁師だった。5年前海で行方不明になってから死体も帰ってこないのだ。 父が行方不明になってからは家庭事情も苦しくなっていったが潤子の母は女手一つで潤子を育てた。 潤子が水泳をしだしたのは中学に入ってからだ。 ライフセーバー・・・これが潤子の夢だ。 海で命を落としてしまう人がいる。潤子はそんな人々を一人でも多く助けたいと本気思っている。 かつて父に何も出来なかったことが悔しくてその道を選んだ。 (私は殺さない。私は命を助けたいだけ、命を守りたいだけ。) 潤子に支給されたのは鎌だった。いかにも殺人用具といったものだ。 でも、潤子はそれをカバンの中に大事にしまってある。絶対に使わないと誓いを立てたから。 (聖子や恵はどうしてるのかなぁ・・・あの子達なら大丈夫と思うけど。) 宮崎 恵(女子9番)と森本 聖子(女子10番)とは幼馴染でいつも3人で遊んでいた。 いつも聖子がリーダー格で恵と潤子は後ろばかり追いかけてきた。 最近は3人が揃うと決まって恋のお話ばかりしていた。 ○○くんがカッコイイだの○○くんは性格悪いとか自分達なりの意見を出して笑っていた。 恵も聖子も今は恋に夢中らしく3人が集まることは滅多になかった。 潤子はその間黙々と泳ぎ続けた。自分には目標があると自分言い聞かせて。 (本当は私も恋愛とかしてみたかったよ・・・こんなことになるならもっと遊ぶべきだったのかなぁ。) 今、少しだけ後悔してしまったような気がした。 すると突然雨が降り出した。物凄い豪雨だ。俗にいう「狐の嫁入り」というものだ。 (狐は嫁入りできるのに私はそれすらも叶わずに死んでしまうのね・・・) 潤子は自分をぎゅっと抱き締めた。少し涙がこぼれた。 雨はなかなか止まない。いや、さっき降ったばかりだから当然である。 制服の袖で涙をぬぐって前を向いた。誰かの影が前に見えるが雨のせいでよく分からない。 (誰かな?こんな雨の中歩くなんて。) 「誰?そこにいるのは?」 相手は返事をしない。ただ右腕をこちらに向けている。 (まさか!?) 気付くのが少し遅かった。銃弾は太ももの辺りを貫いていた。 潤子は激痛が走ったので小さな悲鳴を上げてそのまま倒れてしまった。 思うように足が動かない。出血もひどかった。 狙撃者本人が姿を見せた。 「うわぁ、雨で狙い狂ったな。失敗だな。」 山本 宏(男子12番)だった。宏は近づいて 「ざんね〜ん。ここで君の人生終わりね、何か言いたいことある?」 「助けて・・・お願い。」 「それは無理だぁ。どうせこのままでも大量出血で死ぬんだなぁ君は。どっちがいい?銃で頭ぶち抜かれるか、それとも死を待つか?」 「くっ」 銃声が鳴った。 「ざんね〜ん。時間切れ。」 宏はカバン中から必要なものだけ拝借した。 「じゃあねぇ〜。おお、雨やんだなぁ・・・いい天気だ。」 空には綺麗な虹が出ていた。 「うお、虹を拝めるなんてラッキー。君は今あの虹の上を歩いているのかなぁ♪」 宏は意味の分からない台詞を言ってそのまま去って行った。 氷神 純也はこの激しい雨の中でも歩いていた。 急に雨がやんだので純也は空を見上げた。だんだん雲が薄くなって太陽が顔を出した。 そして虹がかかったのを見た。 (虹かぁ、人生において2回目の虹だな。水姫(みずき)や亮子(りょうこ)にも見せてやりたいぐらいだ。) 純也はあまりの虹の輝きに目を奪われてその場で立ったまま動かなくなった。 太陽に手をかざしてそのまま手を握り締めた。 (太陽はあんなにも遠い。虹は分からないくらい長い。まるで俺達との距離ぐらいに。なっ、水姫、亮子。) 純也は立ち止まるのやめて再び歩き出した。 (そんなことよりもこれからどうしようか。これはちゃんと考えないとダメだな。) その純也の後姿を見ていたのは赤田 結衣(女子1番)だった。 たまたま結衣は雨宿りをしていると男子生徒が横を通りすぎるのを見たのでそのまま尾行をしてきたのだ。 (あの人誰だろう?このクラスの人じゃない。もしかしてSPゲストって言われてた人かな。名前はっと。) 結衣はカバンの中に入っていた出席名簿を取り出し、確認してみた。 (ゲストさんはっと・・・ダメだ、載ってない。これじゃ声もかけられない。もう少し尾行を続けてみようかな。もしかたらやる気かもしれないしね。) 結衣は再び歩き出した少年をさらに尾行することにした。 結衣には思うことがあった。 (どうして私はあの人を追いかけているんだろう?まあいっか。) <C8 夢の海岸> 木佐貫 歩(男子5番)と小早川 良太(男子6番)は共に海岸に来ていた。 あゆむが彼女である中野 歩(女子8番)をここで待つからだ。 あゆむとこばは体操座りで海を見ていた。そこに会話はなかった。 そんな沈黙に耐えられなくなったこばがあゆむに話しかけた。 「悠斗とみねさんとりょうは大丈夫だろうか。」 あゆむから返答がない。どうやら耳に入っていないようだ。 「なぁ。」 「んん?あっ、すまん全然聞いてなかった。なんだっけ?」 「ふぅ、だから悠斗とみねさんとりょうは大丈夫かなってさ。」 「悠斗とは合流できそうだがあとの二人は分からないな。」 「不吉なこと言うなよ。」 「違うって。みねさんとりょうは他にすることたくさんありそうだってこと。」 「することって?」 「例えばみねさんなら上田さんに返事してないからしてくるっていうのも考えられる。」 「ええ!?みねさんそんなことがあったの?」 「知らなかったのか?」 「うん、まったく。」 こばは峯田 義信(男子10番)は上田 加奈子(女子2番)に告白を受けていたのだが、この事件に巻き込まれたの返事ができていないのである。 「あいつは誠実なやつだからな、たぶん返事だけはしておくと思う。」 「みねさんは俺達の中では一番真面目だしね。」 「そうだな、それにしても悠斗は大丈夫かなぁ。」 「てか探しに行かないの?」 「探しにいってやりたいのは山々なんだがあゆみが心配だからな。とりあえずここに待つって言ってしまったからあゆみと合流するまでここにいるべきだと思う。」 「友情より愛か・・・愛の前では友情なんて薄っぺらいものだな。」 「違う。ただ心配なだけ、あいつを1人するのは危険すぎる。」 「愛は真心ってか?あゆむらしいぜ。」 「あんまり茶化すな。」 「ははは、なぁ、あゆむ。」 「何?」 こばは向こう側を向いて真剣な顔で言った。 「俺はあゆむと中野さんを守れるならこの身を犠牲にする覚悟もできている。無論、悠斗やみねさん、りょうが危険な時もそうする。死ぬはちょっと怖いけど・・・でも、俺は初めて本当の仲間っていうのを見つけたんだ。だから・・・せめてお前達だけには死んでもらいたくないんだ。仲間は一生ものだ、失いたくない。」 「お前の言いたいことはよく分かった。ありがとう。でも、死なせはしない。誰も死なないで脱出しよう。」 あゆむはこばと硬く握手をした。 そこにもう一人いることに気がつかなかった。 「おう、俺もあゆむために死ねるぜぇ。」 「ゆ、悠斗!?いつの間に!?」 青柳 悠斗(男子1番)はちょうど後ろにいた。 「おう、今さっきだぜぇ。こばぁ、お前カッコイイこと言い過ぎ。俺にも言わせろ。」 「悠斗か、とっくにくたばっちまってると思ってた。」 「ひ、ひでぇ。まあいいか、これで3人だぜぇ。俺が入ったからには勇気100倍だぜぇ。」 悠斗が加入することで3人はより一層つよくなった気がした。 「てかぁ、武器なに?俺、ナイフだったんだけど。」 悠斗は腰に挿してあったナイフを出した。 あゆむとこばは一瞬ビビッていたが自分達も武器を確認した。 「こ、これは・・・手榴弾?」 こばが手にしていたのは紛れもなく手榴弾だった。 あゆむはまだカバンの中を探していた。 「おい、まだかよ。」 「あ、あった。やべぇよこれ。」 あゆむがカバンからだしたのは銃だった。コルトパイソンと呼ばれるリボルバー式ものだ。 「ま、まあとりあえず各自身を守るために使うことにしような。」 「分かってるって。」 あゆむ達はあゆみが合流するのを待つことにした。 |
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