プログラム編 2
START!!
男子1番、青柳 悠斗!そこの兵士から荷物をもらいドアからSTARTです。早くしてください。」
悠斗はおろおろとしながら言われたとおりに荷物を受け取りこちらを向いた。
「皆、殺し合いなんかしないよな?俺は皆を信用している。」
「悠斗!待っていろ、俺もすぐに合流するからな!」
歩(あゆむ)は叫んだ。悠斗は一度うなづきドアの向こうへ走っていった。
2分というのはとても短い。すぐに次がまわってきた。
女子1番 赤田 結衣!」
結衣はなかなか動こうとしなかった。しかし、兵士が銃を向けたので慌ててカバンを受け取り出て行った。
赤田 結衣(女子1番)は放送部で部長をしている。透き通るような声はお昼時の疲れた生徒には「癒しの声」と評判もよかった。
さらに外見もなかなかよく、女子からは羨ましがられている。当の本人はコンプレックスを抱えている様子だが。
男子2番 伊藤 隆史!」
隆史はPC部でPCオタクなんて言われているが実は話をしてみるとなかなか面白い人間なのだがあまり人とかかわりを持たないようだ。
女子2番 上田 加奈子!」
加奈子は友達の瀬戸 留美(女子6番)にアイサインしてから出て行った。女子バスケのレギュラーでパワーガード。体格はいいわけではないが誰にも負けないという気持ちの面が評価されているようだ。
男子3番 奥山 友!」
友はサッカー部で主にフォワードがポジションのようだがなかなか試合には出れないらしい。身長がこのクラスで1番低い、それが原因のようだ。実は秀才で福田 聡明(男子9番)に次ぐ成績のよさらしい。
「女子3番・・・・」
次々と生徒が出て行く中、歩(あゆむ)は何もすることが出来なかった。ただ立ち尽くし皆が出て行くのを見ることしか出来ない。
そんな自分が無力に思えてきて歩(あゆむ)はただ悠斗の無事を願うしかなかった。

悠斗は走り続け、橋を越えてC5の公園まで来ていた。ベンチに座ってカバンの中を見た。
500mlの水が2本、パンが2枚、方位磁石にペンライト、そして武器が入っていた。
見たところただのナイフのようだ。サバイバルナイフと説明書きがされてあった。
悠斗は腰にナイフを挿し、学ランを脱ぎ捨てて再び走り出した。それは親友との約束守るための第一歩だった。
(なんとしてでも生きなければ。親友との約束は絶対だからな。)

男子5番 木佐貫 歩!」
あゆむはしっかりした足取りで前へ歩み出た。皆からの視線がとても痛かった。
カバンを受け取り、
「おい、おっさん。」
「何かな?」
「命はないと思え。俺はこんなとこでは死なねえ。このプログラム、潰す!」
「どうぞ、ご自由に。できるものならねぇ。」
大川は変ににっこりした顔でこちらに返答した。あゆむは皆のほうを向き、
「俺に協力してくれるなら声をかけてくれ!ちなみにコバとみねさんとりょうは強制参加だ。そして、あゆみ」
中野 歩(女子8番)はうつむいた顔を上げた。
「俺達の思い出は消えない。俺はそこにいる、待ってるからな。」
あゆむはそう言い放って外へ出て行った。
あゆみにはそれが何処を位置するかすぐに分かった。確信が持てる。
「女子5番は死んじゃったので、
男子6番 小早川 良太!」
「りょう、みねさん!先にあゆむと合流しておくぜ。」
コバはカバンを受け取るとすぐさま外にでていった。
「あいつ、いつもと変わらんな。」
「まったくだぜ。」
峯田 義信(男子10番)と吉村 涼(男子13番)は言った。
「は〜い、私語は禁止ですよぉ。
女子6番 瀬戸 留美。」
彼女は委員長なのだが恐怖のせいか、何も言わずに出て行った。
「まったく肝っ玉が据わってない連中ばっかだな。
男子7番 須藤 大輝!」
須藤は美術部だ。大人しい子でいつもだんまりしているが心はとても優しいと人間的にはとても優秀な生徒だ。ぽっちゃりした体系がおだやかさを醸し出している。
「皆さん、殺し合いなんてしてはいけません。それだけは分かってください。殺してしまった後には何も残りません。」
「いいから早く行け!この小太り豚が!」
須藤はさっと教室をでていった。その時銃声がした。教室まで聞こえるぐらいの距離だからかなり近い距離でのことである。
「うおっ!言った先から始まってるじゃん!次は・・・
女子7番 高橋 真琴!」
「今、銃声が・・・」
「ああ!?何言ってやがる!俺はさっさと仕事終えて帰りたいんだ。死ぬ覚悟で行け!いやだったらここで殺してもいいんだぜ。」
高橋はカバンを受け取ると黙って教室を後にした。
男子8番 竹之内 元気!」
竹之内は何も言わずいってしまった。
女子8番 中野 歩!」
歩(あゆみ)は大川に面と向かって言い放った。
「あゆむくんが全部壊してくれるんだから・・・私達は負けないからね!」
「威勢のよさは褒めてやろう。だが、現実を見てそういってられるかな?」
あゆみはしっかりした足取りで教室を出て行った。

あゆみが外に出ると校門で3人の人間がいることに気がついた。
自分を待ってくれていたのだろうかという思いもあったがそれは違っていた。
1人は倒れていて、2人は泣きながらその倒れた人間に語りかけている。
「おい、しっかりしろ!こんなところで死ぬな!」
「そうよ、あなたはこれからも生きないといけないのよ。」
竹之内 元気と高橋 真琴だった。倒れているのは須藤 大輝、腹部に弾痕があり大量の血があふれ出している。
当の須藤はもう虫の息といったところだ。あゆみにも須藤がそう長くないというのは理解できた。
「僕のことはいいから行ってください。あなた達にはまだ時間がある・・・こんな僕をかまってくれてありがとう。」
須藤はあっけなく息を引き取った。竹之内も高橋も涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。
さっきの銃声は須藤に向かっての攻撃によるだったようだ。
あゆみもショックを受けてしまった。しかし、意外とこんな状況でもあゆみは冷静だった。
「もしかしたら須藤くんを撃った犯人はこの近くにいるかもしれない。ここから離れるのが得策だと思う。」
「この状況を見てよくそんなことが言えるわね。」
「どうしてか分からないけど今の私は冷静みたいなの・・・もしかしら冷血な女なのかもしれない。」
そう言うとあゆみは約束の場所へ向かって歩き出した。
あゆむに会いたい。それが彼女の原動力でもあった。
竹之内と高橋が立ち尽くしていると
福田 聡明(男子9番)が校舎から出てきた。
「おい、そんなとこで立っていたら危ないだろう。」
「須藤が・・・須藤が・・・」
「うわっ、これはひどい。供養してやるのが同級生としての行動だろうな。おい、須藤をそっちの草むらに運ぶぞ。」
3人は須藤を草むらの中に持っていった。聡明はハンカチを顔にかけて合掌した。竹之内と高橋も合掌した。
「これからこういうものも見ることがあるだろう。でも、自ら人を殺しには行くな。須藤が言ったように殺人の後には何も残らない。」
「福田・・・お前・・・あんまり他人ことなんて考えないやつだと思っていたのに。」
「そんなことはない。どっちかというと人間は好きなほうだ。じゃあ、お別れだ。ここには3本の道がある、選べ。」
「それはどういうこと?」
「再会したら合流しよう。それまで死ぬなよ。つまりまた会うために一時のお別れってことさ。できるだけこの島の情報を集めようということさ。」
「そうか、じゃあ俺はこっち。」
「私はあっち。」
「じゃあ自分はここだな。それではまた会おう。」
竹之内と高橋はうなづいてそれぞれに道へ走っていった。
聡明はその姿を見送った後に走り出した。
(竹之内、高橋。また会えるよな・・・死ぬんじゃないぞ。)

男子14番 亘 洵!」
洵は眠たそうにあくびをしながら教室を出た。
大川は今回のSPゲストを呼んだ。
SPゲスト 氷神 純也!」
教室の後ろのドアから投げ込まれるように入ってきた。
メガネ、オールバック、後ろ髪は長いのか紐で縛ってある。筋骨隆々といった体つきに身長は180弱はありそうだ。
注目すべきは顔にある切り傷である。まるで刀で斬られたような痕。それの影響かもしれないが右目は瞑ったままだ。
「ちぇ、せっかく脱走できたと思ったのに。」
「政府相手に半年も逃げるなんて大したもんだよ、ブラッドベイン君。」
「その名前で呼ぶな!それは俺がモノとして扱われる時だけの名前だ。今は人間だ。」
「ブラッドベイン・・・『血を食らうもの』か。君にはぴったしの名前だと私は思うのだが。」
「うるせぇ!しかもまた首輪だ。実験された時を思い出すな。」
「あのプロジェクトで何十人という人が君の犠牲になったわけだよ・・・ただ一人を作るためにねぇ。」
「何言ってんだよ!俺は犠牲にしたんじゃない、一人だけ適合しただけだ・・・」
「はいはい、じゃあ行ってくださいね。」
「おいおい。俺には武器ないのか!?」
「ごめんねぇ、空っぽだった。」
「仕方ないか・・・どうせ死刑代わりに参加させられているわけだし。」
純也はため息を一回ついてから教室を出た。
(ブラッドベイン・・・彼はよく見ておかないとな。)
大川は本部のメインコンピュータに向かった。

安井 亜美(女子11番)はC5にある公園まで来ていた。
亜美はブレイクダンスというものをしている。スピンしたり跳ねたりと何かと忙しいダンスだ。
でも亜美はダンスをしている時が一番楽しいと思っている。
高まる感情に全て身をゆだねて激しい音楽の中踊り続けるのが唯一の楽しみだ。
(昔はブレイクダンスなんて出来るような子じゃなかったのに・・・私って大出世しちゃったなぁ。)
亜美は小学生のころまで目立たなくて大人しい感じの少女であったがこのブレイクダンスに出会ってからは違った。
メガネをコンタクトに変え、髪型もショートカットにした。とても昔の自分とは思えないような姿になった。
今年に学芸会も部長としてブレイクダンスを披露した。おへそが見えそうな服を着て動きやすいジーンズで優雅に踊った。
学芸会は大成功に終わり亜美も部活を引退することとなった。次の日にある男子生徒に告白を受けたが断ることにした。
自分には行きたい高校があったのでそれに向けて勉強がしたかったからだ。その男子生徒も理由を聞くと納得してくれた。
その男子生徒は
「じゃあさ、高校で学芸会するときは俺を呼んでくれよな。」
もちろん亜美はOKした。
「本当?じゃあ俺は安井さんのファン1号ってことだね。」
そう言われた時亜美は何となく嬉しかった。観客の率直な気持ちを聞けたような気がしたからだ。
亜美の体は何もせずとも踊りだしていた。制服姿でブレイクダンスをするのはきっと亜美ぐらいだろう。
こんな漠然とした状況では考えるのも馬鹿らしい。もしかしたら次の瞬間には死んでいるかもしれない。
そう思うと踊らずにはいられない。1秒でも長く亜美は踊っていたかった。できるなら踊りながら死にたいとも思っている。
亜美は一通り踊り終えると近くにあるベンチに腰掛けた。少し汗がでてきていた。
そして再び踊りだそうとした時、声をかけられた。
「おお、やってるやってる。見ててもいいかな?」
そう安井 亜美のファン1号(私が公認)こと奥山 友(男子3番)だった。
「いいわよ。だってまだあなたしかファンはいなんだから。」
「安井さんのダンスを目の前で見られるなんて光栄だなぁ。」
「私が踊る時は「亜美」って呼んでね。」
「じゃあ、亜美さん。ご披露の方お願いします。」
友は拍手をした。亜美は再び踊りだす、たった一人のファンのために。
(奥山くん・・・ありがとう。)
それぞれのスタート。
終わりを迎えた者は天国への道をスタートしている。

須藤 大輝(男子7番)  射殺

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