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榊原 慶二(通称サカキ)20歳に呼ばれて陽平と健太はキッチンへと向かう。他の連中は先に朝食をとっているようで食べ終わって寝転びながらTVを見てるやつもいた。リベリオンズには陽平もふくめ12人の人間が参加しておりその内4人が女性だ。 1人例外がいるがその人物の話は後にするとしよう。 サカキはまだ食べている途中だったのか席に着くと再び食事を始めた。陽平も自分の席に座ってもう冷めかけている目玉焼きをひょいと持ち上げ口に運んだ。口の中に広がる黄身のとろっした食感がなんとも朝を感じさせるものだった。 今日はいつもの人が料理をしていたのではなく一ノ瀬 愛(いちのせ あい)が朝食を作ったらしい。いつもの人は買出しに行っていると一ノ瀬から報告を受けた。 一ノ瀬は大半の仲間からは「いっち〜」と呼ばれているのだが陽平と健太は「愛ちゃん」と呼んでいる。愛はリベリオンズではただ一人、救護の役割をする貴重な存在であった。彼女との出会いも偶然だった。 そんなことを考えながら食事をしていたらいつの間にかテーブルで食事をとっていたのは陽平だけになっていた。陽平はそれに気がついたのでさっさと食事を済ませ食器をキッチンへと持っていった。 「愛ちゃん、これもよろしくね。」 愛は笑顔で答えてそのまま皿洗いを続けた。 (俺達と過ごす前はこんな笑顔は見せなかったんだよなぁ。愛ちゃんはここでの暮らしは充実してると思っているのだろうか?どう見ても年上には見えないよな。) 愛は今年で22歳、陽平は19歳なので3歳違いである。容姿はその年齢とは思えないぐらい幼い感じがして、前髪が目の辺りまでかぶっていてピンク色に染めてあった。もちろん、陽平や健太が「愛ちゃん」と年齢にふさわしくない呼び方をするには理由がある。 陽平はそのままTVのある部屋に入り、卓袱台に肘を乗せてTVを気だるそうに見ていた。最近は陽平たちが派手に活動を行っているためどこのチャンネルのニュースでもそのことについて報道していた。 TVの前でさっきから寝転がっているのは古芳 亮(ふるよし りょう)と名乗っていて全世界で反乱の戦闘に参加している傭兵だった。 傭兵は硬く言うと「金銭的報酬を条件に、契約に基づいて軍務に服する兵」なのだが簡単に言うと戦争屋さんだ、彼とはちょうど一年前に出会った。ちょうど腕のいい傭兵がこの国に来ているとの情報を受けてお金で雇ったのだ。亮は今年で35歳を迎える。 彼のとの関係はお金よって結ばれているのだが彼はここがなかなか気に入ったのか最近は最初の時よりお金をとらなくなっていた。 隣の部屋では海と誰かが口論しているようだがその相手はどうやら八橋 凛(やつはし りん)ようだ。海とは同い年(15歳)である。 さっきから「うちのほうが大きいわぁ」やら「い〜や私の方が大きい」という声が聞こえてくる。 一体、何を口論しているのか。陽平は少し気になったので声の聞こえる部屋のドアをノックして入室の確認をとり、中へ入った。 「何を口論しているんだ?隣の部屋まで聞こえてくるぞ。」 「え!?何って・・・ねえ?」 「うちにふってこんといてやぁ・・・もうええわ。じゃあ立花さんに単刀直入の聞くわぁ。」 海は一息いれて 「その・・・うちと・・・凛・・・どっちが・・・大きい?」 「え?なんだって?声が小さくて聞こえない。」 海の声は陽平には聞こえにくかった。 「だ・か・ら!うちと凛、どっちが大きいか聞いてんの!」 陽平は海が指を示したほうを見てやっと理解した。彼女達もそんなことを気にする時期なのだなと陽平は思った。 しかし、面と向かってどちらかと言うのも気が引ける。陽平はそういうものには興味がなかったし、第一作戦開始3日前にそんなことを考えている暇はなかった。 そこにちょうど誰かが部屋をノックするの確認できた。ノックの主は火神 零(ひかみ ぜろ)だった。皆、彼のことを「ゼット」と呼んでいた。彼のことは後に話すとしよう。 「ゼットか、ちょうどよかった。このお姉ちゃん達の相手してやってくれ。」 「お、俺がですか!?え?なんで?」 陽平はゼットの肩をポンッと叩くとそのまま部屋を後にし、庭に向かうことにした。庭に向かう途中でも彼女らの会話が耳に入った。 「こうなったらゼットくんに聞くしかないみたいね。」 「当たり前やん。ゼット覚悟してや。」 「え?え〜!?い、一体なんですか!」 つかの間の無言の時間が続く。 「さあ、どっち(なん)?」 「お、俺が姉さん・・・たちのむ・・・ねさわ・・・っ・・・さわって・・・・・しまった。」 「ゼットくんどうしたのそんな赤い顔して?うわっ、鼻血がでてるよ。」 「ちぃ〜と胸さわったぐらいでこれやったらあかんなぁ・・・いっち〜!ゼットが鼻血だしたよぉ!診てあげて!」 向こう側からあわただしい足音が聞こえる。きっと愛の足音だろう。 本当に今日は作戦開始3日前なのだろうか?そういう緊張は家の中からは感じられなかったが庭にいる連中の雰囲気は殺伐としていた。 長い旅から帰ってきたカズやノブ、縁側で座っているサカキ、その隣で座禅を組んでいる健太、素振りをしている美穂。 彼らからは緊張を感じられた。特に健太からは張り詰めたような緊張を感じられた。 縁側に座っていたサカキがこちらに向かってきた。 「ちょっと話がある・・・時間とれるか?」 「ああ、別にこれといった用事はない。散歩しながらでもいいか?日課だからな。」 サカキは首を縦に振り、陽平に続くように歩いた。 リベリオンズのアジトはすごく田舎で田んぼや畑といった農作業を中心として働く人が多い土地だった。 特に老人の割合が多く、こんな田舎に犯罪グループが住んでいるわけがないとでも思っているようで陽平たちが騒ぎを起こしているということも分かっていないらしい。よく「あのグループのリーダーに似てるね。」といわれるのだが決まって「よく言われます。」と答えておけば向こうはそれ以上は話そうとはしない。とても平穏な場所。だから陽平たちも安心して暮らすことができるのだ。 そんな田舎の道を歩きながら陽平はサカキの話を聞くことにした。 「サカキ、何かあったのか?」 「正直、自分は不安だ。なんとかここまでやってこれたけどいざ本番となると不安を隠しきれない。」 「戦闘戦略のサカキが不安だと他のやつにも影響が出る。今は耐えるしかない。」 「分かっていてもできないのが人間だ。自分はプレッシャーに弱いみたいだ。」 「それは知っている。なぁ、初めて会ったときのこと覚えているか?サカキは絶望の顔をしていたな。」 「そうだ、これのせいでな。」 そう、実はサカキの右腕は産まれたときからなかった。右腕がない、それでけで色々な差別を受けてきた。 しかし、サカキにはそんなものはハンデにならないぐらいすごい頭脳があった。陽平はそれに目をつけて誘ったのだ。 「なんか陽平に自分のこと教えたくなった。たぶん、死への不安からくるものだと思う・・・聞いてくれるか?」 陽平は黙ってうなずいた。 サカキこと榊原 慶二は双子の弟して生まれた。 生まれた時双子の腕は見事につながっていて切断をせざるを得ない状況だった。慶二は兄に腕を渡すこととなり自分は片腕がない子供として生まれた。 それぞれ才能も違っていた。五体満足の兄はスポーツが出来る子に片腕のない弟は勉強の出来る子にそれぞれうまいこと才能を持ち合わせていたが人の見方は全然違っていた。 二人の人間はまったく違った人生を過ごしていた。兄の方は親にとても歓迎されて育っていったが慶二はその恩恵のおこぼれほどしかうけることができなかった。 慶二は親の愛を十分に受けることが出来ずに学生になった。兄は学校全体にも広まるぐらい知られた人間で友達もたくさんいていつもクラスの中心にたって指揮を取れるようなとても大きな存在となっていた。スポーツができることもあるのか女の子からも人気があった。 一方の慶二はまったく逆の人生を過ごしていた。いじめにあい、担任の先生にも相手にされずついには自殺未遂までする始末であった。 学力だけはつねにNO.1であった。慶二にとってそれだけが自分の生きていく道だと思ってそれだけに真面目に取り組んだ。 「片腕ではできない。」何回そう言われたかはもう分からない。 そんな慶二も高校を卒業することになり大学に行こうとしたのだが親がその資金を払わないと言い出したのだ。 兄はとある有名スポーツ大学に推薦で行くこととなっていて特に問題はなかったようだ。 「では、自立をここに宣言します。500万だけ自分に貸してくれないか。」それだけを頼んで慶二は家を出て行った。その時の親のほっとした顔を今でも忘れることが出来ない。 慶二は大学に行くための資金集めに専念した。NETでの商売や住み込みで働かせてもらっているゲームプログラミングの仕事をなんとなくこなしジリ貧の生活をし続けた。 (自分には勉強以外にできるものはない。だから大学に・・・) しかし、そんな生活を1年続けたが大学で生活していくにはまだまだ資金が足りない。もう生きる希望もなくなっていた。 そんなことを考え出したある日、慶二は仕事の休み時間に抜け出して近くの高層ビルの屋上に向かった。 屋上についてそのままフェンスをよじ登ろうとした時、後ろから声をかけられた。 「お前、ここで何するつもりだ?」 <ビルの屋上で> サカキはびっくりして後ろを振り返った。二人の少年が座りながらこちらを見ていた。 一人は黒髪で整った髪形をした少年、もう一人は紫っぽい髪と赤みがかかった瞳をしている少年だった。 どうやら話しかけてきた少年は黒髪の少年のようだ。いくら自殺を考えていたからといって人の気配に気付かなかった自分に不安を覚えた。 「お前とは初対面の人間に対して失礼だとは思わないか?大体、自分が何をしようと勝手だろう?」 「まあお前一人が死んだって世界に何の影響もないだろう。しかし俺達もみすみす人が死んでいくところを黙って見るような人間じゃない。 わけを話してみないか?少しは楽になるかもしれないぜ。」 そういいながら黒髪の少年は横においてあったコンビニの袋からサンドイッチをだしてくわえた。 紫の少年は黙ったままだ。何かとてつもないオーラをびんびん感じた。 「ふぅ〜、まさか君達のような子供に助けられるとはね。18歳になった自分もまだまだだな。」 「そうかお前の方が1歳年上なのか・・・まあそんなことはどうでもいい。どうした?話さないのか。」 慶二は2人にいままでの人生を語った。自分がどのように育てられ、どのように過ごしてきたのかをこと細かく2人に話した。 全部聞き終わった後、紫の少年が笑い出した。 「ははは、片腕がないことがハンデ?そんなのは虚構だ。なぁ、陽ちゃん。」 「そうだな、あいつは片腕でも腹に弾丸くらっても最期まで生き抜いたもんな。」 二人の少年は遠い向こうを見るように空を見上げた。サカキは一つ疑問に思ったことがあった。 「で、君達はどうしてこんなとこにいるんだ?」 「空・・・そう、こんな晴天の青空を見に来ただけだ・・・忘れないように・・・皆のことを。」 「皆って?」 「さぁ、俺達はもういかないとな。政府のやつらをぶっとばしにいかないといけないしな。行くぞ、健ちゃん。」 「わぁ〜たよ。じゃあ、死ぬなり生きるなり勝手にしやがれ落ち武者。」 二人はエレベーターで降りようとしたがサカキは二人を止めた。 「ぶっとばすって・・・どういう意味だ?」 「俺達は反乱グループ「リベリオンズ」のメンバーだ。ちなみに俺はリーダー立花 陽平。」 「俺は武車 健太。銃器の扱いには自信がある。」 「本気か!?確かに今の政府はやばいことばっかやってるが・・・」 「そろそろ、行くぞ。」 「ちょっと待った。自分を仲間に加えないか?」 サカキは自分でどうしてそういったのか分からなかった。たぶん、運命のようなものを感じたのだろう。 「じゃあ、お前のアピールできるものをあげてみろ。できないのなら却下だ。」 「自分にはこの頭脳がある。右腕がない分頭だけは回る。ちなみに灘山高校でNO.1の学力は持ち合わせている。」 「そうか・・・まあいい、ついて来い。もしウソだったらお前を即座に殺す!それだけは覚悟しておけ。」 「一度捨てた命だ、世の中を変えるために自分も全力を尽くさせてもらおう。」 榊原 慶二(通称サカキ) リベリオンズ参加! そのあと調べたのだが灘山高校とは全国でも学力で有名な高校だった。そのなかでNO.1の頭脳だった彼の名前は見事に学校内で保管されていた。 「サカキ、そうだったな。そういえばそんな話をしていたな。」 「そうだ。陽平・・・絶対死ぬなよ。」 「当たり前だ。皆で生きて新しい世界を切り開く!そしてこの世界に再び平和をもたらしたい。」 二人の話がちょうど終わったころに朝の日課である散歩は終了した。 そのまま玄関に靴を置いて家へ入った。入る前に庭を確認したがさっきいた連中は家の中に入ってしまったようだ。 家に入ると愛が迎えてくれた。 「おかえりなさい、陽平さん。」 「ただいま、愛ちゃん。」 一ノ瀬 愛。彼女とは事件がきっかけで知り合うこととなったのだ。 しかし、彼女との出会いは健太が一番印象に残っているだろう。あの時、健太があの場所に飛び出して・・・ |
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