リベリオン編3
― やつの妹 ―
ノブ(福原 信雄)と出会ってもう3ヶ月が経とうとしていた。そろそろノブという人間がどういうものかが分かってきた。
性格はいたって穏やかで明るさも持ちあせている。とても付き合いやすいタイプだ。推測だが仲間もたくさんいたのだろう。
今、ノブは政府の管理する戸籍名簿にリンクしようとしているみたいだがなかなかうまくいかないらしい。
戸籍名簿からある人物をさがすように陽平はお願いしたのだ。そう、彼との約束を果たすためだ。
「委員長はんやったらそういってくれると思ったわぁ。まず1、政府をしばいといてくれ。2、あんたらが反政府軍団作る時には「海」をメンバーに入れてやってくれ。3、わいを殺してくれ。」
そして銀のロケットを手渡された。陽平はまだ3しか守れていない。
陽平はロケットを取り出し強くにぎり締めた。そして一刻も早く彼の妹が見つかるように祈った。
その時、思いが通じたのかノブから吉報が伝えられた。彼女が見つかったと。
ノブの部屋に皆集まった。そしてPCの画面に釘付けになった。そして彼女のデータが書かれてあった。
清本 海 12歳 諏訪山中学1年 現在は清本家の養子
苗字が違うのは養子だからだろう。写真が載っていたのでどんな顔かも分かった。
陽平はいてもたってもいられなくなり皆に告げた。
「明日、俺が迎えに行くよ。俺らの・・・大切な仲間を。」
健太も美穂も黙ってうなずいた。

<諏訪山中学校の校門>
放課後家へ帰る生徒でにぎわうこの校門でさえ今日は人通りが少なかった。
陽平は全身黒の服を身にまといある人物を待っていた。そう、昨日見つけた清本 海だ。
この学校は明日文化祭らしく人通りが少ないのも納得できる。普通、行事の時は特定の生徒以外は早く帰ってしまうものなのだ。
それは陽平がクラスの委員長だったころから分かっていたことである。昔はよく居残らされたとしみじみ思う。
そんな昔の思い出に浸っていると一人の少女が運動場の真ん中を歩るいていた。
それは間違いなく清本 海であった。陽平はプリントアウトしてきた写真と照らし合わせてみたが結果は一緒であった。
そのまま素通りしてしまいそうな時に陽平は小さくつぶやいた。
「江井原 海、江井原 大輔の妹か。」
清本 海はバッとこちらに振り返った。予想通りの反応だった。そしてヅカヅカと海がこちらに向かって歩いてきて口を開ける。
「あなた誰?なんでうちの前の名前知っとん?」
陽平は何の動揺もなく淡々としゃべった。
「君はあの事件以来のお兄さんの話聞きたいかい?もちろん君が俺のことを信じるかどうかによって決まるのだが。」
海は陽平の肩を揺さぶりながら興奮した声で
「お兄ちゃんのこと知ってんの!?どうなん!?ねぇ!」
「そんなにいきり立たなくても俺は真実を話すつもりだ。こんなところで話することではない、近くに公園とかないのか?」
海は公園のあるほうを指差した。陽平はそっちのほうに向かって歩き出した。その後ろを追いかけるように海は追いかけた。

<公園>
滑り台やブランコ、ジャングルジムといったものが設置されてあるごく一般的な公園だった。
陽平は迷い無くベンチに一直線に向かって面倒くさそうに腰をどしっとおろし腕を組んで足をも組んだ。
その目前にいる海が投げかけるように質問を浴びせた。
「さっきもゆうたけどあんた誰?うちは清本 海。前は江井原やったけど・・・」
「俺は・・・立花。立花 陽平、今は国指定の犯罪者。」
海はそれを聞いて少し後ずさったが兄のことをどうしても聞きたかったのでそのまま質問を続けた。
「で、その国指定の犯罪者さんがなんでお兄ちゃんのこと知っとん?何が目的なん?」
「俺は大輔とはかつてクラスメートだった。だから君がいなくなった後の彼を少しだが知っている。目的・・・それは君にこれを渡すことと君を俺の「リベリオンズ」のメンバーに引き入れることだ。」
陽平はポケットから例のロケットを取り出し、海に渡した。
海は渡されたロケットを開けまじまじとそれを見つめていたが急に涙目になった。そして質問をさらに続けた。
「お兄ちゃんはどこ?なぁ!どこにおるんよ!」
「それは・・・」
「まさか!?そんなはずない。お兄ちゃんは強いから絶対負けへんもん。ちゃんとうちを最後まで守るゆうたもん。」
「すまない、君の考える最悪の事態がたぶん正解だ。大輔はもう・・・」
陽平は一息いれた。海はぼろぼろと涙を流して悲しみを露にしていた。
「しかし、話はこれで終わりじゃない。最後まで聞いてくれるかい?」
海は泣きながらうなずいた。
「大輔は君がいなくなった事件から2週間後に俺達の中学校に転入生として入ってきた。最初は関西弁の変なヤツと思っていたがしだいに親しみやすいやつだと分かってからけっこう仲良く日々の生活を送っていたんだ。大輔は鷹山さんとは特に仲がよかった。それで3年生の修学旅行の時に俺達に最悪の事件が起こった。政府のやつらはそれをプログラムと呼んでいやがった。プログラムっていうのは当の昔に廃止された昔の産物だったのだが政府のやつらはそれを復活させやがったんだ。そして俺達が巻き込まれた。皆が殺し合った・・・何処を歩いても自分のクラスメートの死体が転がっていた。俺達は政府への反逆を誓って島を脱出しようとした。非常に残念だったがそのころには鷹山さんは亡くなっていた。俺達は船に乗り脱出を試みた時に最後の狙撃をされた、その時大輔は俺達をかばって・・・弾を全部自分の体に受け止めた。そして大輔の最後の言葉を聞き、そのロケットを受け取った。妹を頼むと海は絶対生きてると大輔はそう言って息を引き取った。そしてまだ仲間が3人残っていた俺はいつかの復讐に備えて今にいたっている。大輔の約束と無念を晴らすためにね。」
陽平は半分ぐらいウソをついた。大輔を殺したのは自分だとは言えなかった。胸がズキッとしたがここはそういう以外なかったと自分に言いきかせた。
海の涙は止まらなかった。その顔はまさに悲劇のヒロインにでもなったようなそんな顔だった。
とても直視できるものではなかった。陽平はそのまま黙って立ち上がってその場を去ろうとした。
海は涙を腕でぬぐいながら大きな声で陽平を引き止めた。
「どこ行くねん!まだゆうことあるやろ!お兄ちゃんが死んだのはあんたの不注意が招いたってゆうのが分からんの!」
陽平は胸が張り裂けそうな痛みを覚えた。心臓の鼓動が速くなるのが分かった。
確かに大輔を殺したのは自分であり、ウソをついたのも事実である。しかし、陽平もここまでそれを引きずりながらきたのだ。
陽平は込みあがったものを海にぶつけてしまった。
「悲しいのは、お前だけじゃない。俺だって大輔を救ってやりたかった。皆と共に政府に復讐してやると思った。俺だって大事な仲間を失った。つらいのはお前だけじゃない!俺や俺の仲間も皆つらいんだ!!お前みたいにブラコンじゃねぇんだ!俺は本気で・・・」
その時木に身を隠していた健太が出てきて陽平を止めた。
「やめろ、中学生相手に何むきになってやがる。そもそも俺達はこの子に仲間になってほしくてここに来たんだろ?一番の目的忘れてるんじゃないか?」
「健ちゃん、悪い。俺ちょっと疲れているみたいだ、先に車で待ってる。」
陽平は公園を出て行った。健太が海に話し掛けた。
「悪い、うちのリーダーはこのことになると熱くなっちまうんだ。でもリーダーが言ってることは本当のことなんだ。それだけは分かってやってくれないか。それとリーダーが君のことをブラコンと言ったこともここで詫びる。すまなかった。」
健太は深々と頭を下げた。涙も引いてきた海はゆっくりと話し出した。
「うちもちょっとお兄ちゃんのことで頭いっぱいになってしもうたわぁ。リーダーの人に謝っといて。そしてこれ届けてくれてありがとうって。」
海は回れ右して去ろうとした時健太が最後につぶやいた。
「もし、君の大輔に対する気持ちが本物で俺達に協力してくれるっていうなら明日、ここに来い。タイムリミットは明日の正午だ。」
海はそれを聞いたのか定かではないが走ってその場を去った。
健太は車に戻って陽平に用件を伝えた。美穂も一緒に乗っていて、ノブが運転をしている。
「一応誘っておいたぜ。来るかどうかは五分五分ってとこかな。まあ、あの子がどれぐらいの戦力になるかは想像がつくけどな。」
「ありがとう、そしてすまない。やはりあのことになるとどうしてもダメだ。」
「別にいいぜ俺は、こういう役が似合ってると自分でも思ってるしな。がんばってくれよリーダー。」
「そうだよ、あんたががんばらないとあたいらまで道連れなんだからね。」
「分かってる。ところで健ちゃんはどのぐらいの戦力になると思うんだ?やっぱり大輔ぐらいすごいのか?」
「江井原 大輔まではいかないだろ。3人がかりでも指一本触れられないんだからな。う〜ん、もしケンカや訓練されているなら才能で考えるとあいつの60パーセントぐらいだろう。別に普通に暮らしていたのなら20パーセントぐらいだな。まあ俺達で訓練すれば80パーセントぐらいにはなるんじゃねぇの。」
「そうか・・・まあ加わってくれることを祈るだけだよ。」
車は山道へと入っていった。

<次の日>
文化祭当日だったその日は海にとって一番忙しい日だった。午前の仕事が終わって今はちょうど休みの時間であった。
海は迷っていた。確かに兄を思う気持ちは本物であり今まで世話になってきた政府には悪いが復讐に協力したいとも思っている。
しかし、海はもう失いたくなかった。今いる学校の友達や一緒に暮らしている家族、大切なものがたくさんある。
今の生活に満足しているし、ロケットに映っている兄の笑顔はもう関わるなと言っているようにも思えた。
今は11時50分、運命の時間が迫っていた。

一方、陽平たちは約束の公園で待機していた。時計はもう11時58分をさしている。
健太はもうあきらめたのか車に戻ってガムを噛み始めた。健太はイライラするとガムを噛む癖があった。
公園の真ん中に美穂と陽平が並んで突っ立っていた。陽平は時計を睨みつけるようにみていた。美穂の落ち着きとはまるで正反対であった。
時計が12時を指した時、公園の入り口に制服を確認できた。清本 海であった。
制服姿で体の割には大きなカバンを担ぎながらこちらにきて手を差し出しながら話し出した。
「やっぱお兄ちゃんの遺志を継ぐことにしたわぁ。この世で一番うちを愛してくれたのはお兄ちゃんだけやったし、そのお兄ちゃんを殺したのは政府の人みたいやもん。それにまだお兄ちゃんのこともっと詳しく聞きたいってのもあるねん。よろしくなぁ。」
陽平はがっちり握手を交わしたが気になることがあった。
「家は大丈夫なのか?」
「お兄ちゃん探してくるって言ったら即OKやったわぁ。なんか海ちゃんの自由にしてええよってゆうてくれはったし。」
「そうか、じゃあよろしく。」
「で、このメチャ綺麗なお姉さんは誰?もしかして彼女?」
「ち、違う!なんであたいがこんなやつと。」
「こんなやつってのは心外だ〜。だ〜れかな、昨日参ったが言えずにぶっ倒れたお馬鹿さんは。」
「あ〜、それは言わない約束だったはず、この馬鹿!」
「おっ、柳生さんがなんかいつもより変だぞ。いつもの冷静さは何処へやら。」
「う、うるさい!今日はあたいが勝つよ!ぜぇ〜たい負けないからな!」
「望むところだ!おっとごめん、彼女は柳生 美穂。そして車に乗ってるが武車 健太と福原 信雄だ。」
ノブは運転席から手を振っていた。
「ふ〜ん、個性的な人が多そうな反逆グループやね。で、立花さんは柳生姉ちゃんのことどう思ってるの?」
「な、なんだよいきなり。まあそのうち分かるさ。じゃあ帰ろう、俺達の家へ。」
4人乗りの普通の乗用車に5人詰め込んだのが悪かったのか、車は重々しく山道へと入っていった。


江井原 海     リベリオンズ参加


「俺達の出会いは大輔を通して出会った。まさに歴史は繰り返すってやつだな。」
陽平は原点に振り返ったようでなぜか爽やかな気分だった。朝の光もまぶしさを増してそろそろ食事ができる時間のようだ。
さっき前を通った海ももうとっくに食事の場所に向かっていったようでここにはいなかった。
隣では健太がなにかをこらえていた。
(陽ちゃんにとっては感動の出会いだったかもしれないが俺にとっては珍発見の出会いだったぜ。)

<車内>
ノブが海に手を振り終わって座席に着いたとき、健太が話しかけた。
「あの子何回「お兄ちゃん」って言った?間違いなく「ブラコン」だな。」
「じゃあ俺はマザコンだ。」
「おい、ノブ。まさかお前、いまだに母親のこと。」
「もちろん、「ママ」と呼んでいる。」
車内の温度が3℃ぐらい下がった気がした。


背が低い男がこちらに向かってきた。
「健太、朝ごはん出来てるみたいだ。陽平も。」
健太と陽平は同時に答えた。
「分かった、今から行く。」
この男、名は
榊原 慶二(さかきばら けいじ)
彼とはある事件ができごとで出会ったのだ。
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