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井上 和男(カズ)は朝早くから起きていた。旅の支度をしているらしい。リビングのテーブルで所有物の確認をしているようだ。
といっても入っているのはノートPCと武器(小型拳銃)ぐらいだ。そして置手紙を書いて家を出た。 朝、いつも最初に起きるのは決まって柳生 美穂だった。これから朝ごはんの支度である。 時計は7時半を指している。刻々と時間が過ぎ行くのを見てそれがとてもはやく動いているように感じた。 ふとテーブルに目をやると置手紙がしてあった。美穂はカズのものだとすぐに分かったので読むことにした。 『一言だけ書いておく。PCを使えば少し仲間集めが楽になるかもしれないぞ。それに関しては武車くんに全て話しておいたから大丈夫だろう。それから最後に「いってきます」 私の愛する家族のものへ』 (家族ねぇ・・・いい響きだ。あたいの家族はどうしているのだろう、まあ一人いなくなっただけで動揺する家族とは思えんのだが。) 美穂の家は柳生の宗家の子孫であって美穂もその柳生の血が流れているのだ。家の決まりごとが厳しく特に女の子として生まれた美穂には家族のものもあまり干渉しようとしなかったのだ。美穂はいつも兄や弟だけが特別扱いされているのを指をくわえて見ているしかなかったのだ。何度も女として生まれてきたことを憎み、ついには自殺まで考えたこともあった。 だがそんな中現れたのは立花 陽平だった。初めは特に意味も無く入った剣道の世界だったが美穂を心の底から熱くさせる男が現れたのだ。 その時美穂はまだ小学1年生だった。この陽平という少年はすごく興味のわく少年だった。 何度打ちのめされてもまた試合を挑んでくる。そして回を増すごとに強くなっていく。結局、美穂は陽平には追い越されてしまったのだが。 それからずっと陽平の後姿を見続けることになっていたがそれでもよかった。美穂は今ライバル心とは違う感情を陽平に抱いていたが、それが何かよく分からないから特に口だそうとは思わなかった。そのうち分かるだろうと。 美穂はエプロンを着ていつもどおり朝食を作ることにした。フライパンを使って野菜を炒めるあのジュウジュウという朝らしい音がリビングに広がった。 それからすぐに陽平が起きてきた。頭をかきながら、大あくびをして涙目をこすりながらこちらにやってきた。 「おはよう、柳生さん。今日もいい天気だなぁ〜。」 「のん気なこと言ってないで顔洗ってきな。そこに先生の手紙置いてるから見ときな。」 陽平はまだ寝ぼけ眼で意識がはっきりしていないらしい。顔を洗ってから置手紙を読んだ。 「家族かぁ・・・そうだな。俺達もう家族みたいなもんだな。俺の家族どうしてるのかなぁ?じいちゃん元気にしてるかなぁ。」 美穂は料理が完成してテーブルに綺麗に並べた。深く椅子に座って陽平に武車 健太を呼ぶようにいった。 陽平はしぶしぶ健太を呼びにいった。陽平をしのぐぐらいの寝ぼけ顔でやってきた。健太は朝に弱かった。 一緒にテーブルに座って食べるのはもう日課となっていた。とても静かな時間で誰も喋ろうとはしない。 食べ終わったあとは皿洗いだがこれは当番制になっていて毎日ローテーションで変わっていく。今日は陽平の日だったので皿を洗いながら健太に聞いた。 「健ちゃんは先生から何か聞いてるのだろう?何を聞いた?」 「インターネットの無法地帯を使えばいい人材見つかるかもだって。無法地帯っていうのは政府の目が届いてない場所のことだ。」 「そんな場所存在するのか?まあ俺にはまったく分からないが。さっそくPC開けようぜ。」 陽平がPCの電源をつけようした時、健太は止めに入った。陽平は理解できずに戸惑っていた。 「なんだよ。どうしたんだ?」 「普通の回線つないで無法地帯に入れると思っているのか!?そんなに急ぐことも無いだろうって思っていたけど陽ちゃんがマジみたいだから始めますか。」 健太は普通の回線を遮断してアンテナのようなものをPCに装着した。ラジオのチューニングをあわせるような電波音が聞こえ出した。 正直耳障りな音だった。美穂は食い入るようにPCの画面を眺めていた。とても話しかけれそうにも無い状況だ。 「よっしゃ、アクセス完了だ。おっ、さっそく入ってきやがったなぁ。」 「何が入ってきたんだ?」 「PCウィルスだよ。この世界はウィルスが充満してやがるんだ。しかし、先生が作ったウィルス除去機能を使えばそんなのは問題にならん。んん!?これは・・・ふ〜む。」 健太は顎をすりながら画面を見つめていた。美穂は画面に見飽きたのかさっさと外に出て行ってしまった。 陽平はその場は健太に任せて後を追いかけた。どうやらいつもどおり剣術の稽古に励むようだ。 庭では美穂が木刀で風を切る音しか聞こえないぐらい静まり返っていた。陽平も木刀を持って隣で稽古を始めることした。 陽平が2本の刀で切る風の音と美穂の音はまったく違うものだった。陽平は力強く重たい。一方美穂は居合切りのような鋭い振りだった。 「体も温まってきただろう?そろそろいいだろう?」 「そうだな、いいだろう。本気でかかってきなさい!」 「当然だ。」その後は木刀がぶつかり合う音しか聞こえなかった。 一方、健太はあるゲームに参加していた。「ハッキング」でどれだけ相手の情報を入手できるかというものだ。 無論意味も無く参加したのではない。ここでPCの天才を探すのだ。今、健太は決勝まで進んだ。今のところ一つとして情報は盗られていない。正直思っていた“楽勝”だと。次の試合、健太は地獄を見ることになる。 画面にSTARTという文字が表示されると始まるのだが相手のハッキングプログラムはいきなり攻撃を仕掛けてきた。 HNは「ノブ」いうらしい。さっきそこらのやつに聞くとノブというやつは相当キレるやつらしくこのゲームの優勝を毎回さらっていくようなやつらしい。 もう情報は半分以上流出していた。もちろんGIVE UPもできるのだが代償も大きいものだった。 しかし相手の動きが急に止まり、なんとGIVE UPを申し出たのだ。わけもわからず健太は優勝ということになった。 目が疲れたのでしばらく休もうと思ったが異常なことが起こった。 メールが一通届いていたのだ。この無法地帯での健太のアドレスに届けることができるのはカズだけのはずが送られてきていたのだ。 健太は入念にウィルスチェックをして開くと送り主の名前に「ノブ」と書かれてあった。 さっきのやつだろうか?健太は恐る恐る開いた。 {HN「ノブ」のメール内容} 「さっきは優勝おめでとう。君なかなかの腕の持ち主のようだね。何か君に興味わいたよ。どうオフで俺と会ってみないか? 俺は明日、仙台駅の二番ホームのベンチにいる。青色のTシャツが目印だ。ちなみにこのアドレスに返信しても俺には届かないぜ。」 (もし、このメールが本当にノブとかいうやつのものだとしたらすごい人材が手に入ることになる。明日は俺一人で行くことにしよう。) 健太はPCの電源を消してまだ稽古をしている陽平と美穂を部屋から見ることにした。 <翌日> 健太は無断で家を出て行き、仙台へ向かった。もちろん顔を隠すことは欠かさない。なんといっても自分達は国指定の脱走者なのだから。 仙台に着いた。にぎやかな町並みがホームから見渡すことができる。今住んでいる場所とは大違いだった。 約束の二番ホームについた。現在2011年、今となってはリニアモーターカーは普通に運行している。仙台にもあっという間に着いてしまった。まだ家を出て4時間もたっていない。 青のTシャツを探すことにしたがホームにはそのような人物はいなかった。やはりウソだったのか。 健太は帰ろうと思って反対側の3番ホームに向かうことにした。階段を下りていると青いTシャツの少年が上ってきた。 (まさか!?) 少年を引きとめた。少年は驚いた表情をしていたがすぐに悟ったらしく健太をベンチに座らせ話した。 「お前が優勝者か?」 「そうだ。お前が「ノブ」か?それにしては若いように見えるんだが。」 「何大人ぶってんだ?お前のほうが若いぜ、国指定の脱走者さん。」 「き、貴様。なんでそんなことが分かる!?」 「俺はネットの支配者だぜ。そんなの分かって当然だろ。第一俺が興味あるのはそんなことじゃない。」 「じゃあなんだっていうんだ?」 「お前らのな、反逆計画だよ。あの時俺はハックから盗んだお前らの情報を見たんだ。なかなか面白そうだと思ってな。」 「お前正気か?」 「当たり前だ、どうだ?俺を入れないか?俺の名は福原 信雄(ふくはら のぶお)ノブでかまわん。」 福原が握手を求めてきたが健太はまだそれに応じようとはしなかった。まだ不明な点が多々あるからだ。 「んん?やっぱりダメか?それともまだ何か?」 「違う。まだお前がどんな人間か分からない。そう易々と了解を出すわけにはいかない。俺達は本気なんだ。」 「死んだ仲間たちのため、か。ふ〜ん、なかなか熱い少年みたいだね君は、立ち話もなんだからそこの喫茶店に入らないか。」 福原は駅内にある喫茶店を指差した。健太は首を縦に振り喫茶店へと足を向けた。 喫茶店にはいるとすぐに店員の人がやってきて席を案内した。注文をついでに聞いてきたので健太はコーヒー(ブラック)を頼み、福原はホットレモンティーを頼んでいた。二人とも席に着き向かい合う形で座ることとなった。健太が先に口を割った。 「お前は何者だ?今更隠す必要はねえだろ。」 「じゃあ簡単に自己紹介といこうか。福原 信雄 22歳 自称ハッキングのマスター。普通に大学卒業した一般人さ。」 「俺はってお前は知ってるよな。年は16だ。」 「お、俺の方が年上じゃん。まあ君らには年なんて関係ないんだろうけど。で、俺は入れてもらえるのか?」 「すまないが先に俺の質問に答えてくれ。お前はどれぐらい俺らを知っている?」 「脱走者で反乱を図っているぐらいしか知らんな。メンバーの方は軍内のネットワークにハックして調べさせてもらっている。」 「ということは大体のことは分かっていると思っていいんだな。もうひとつ、何故協力する?」 「分かるだろ?もう俺は仕事しなくちゃいけない年だ。そんな普通の人生はつまらん、それだけだ。」 「いいだろう、ついて来い。俺達に家に案内しよう。」 「うん?もういいのか?俺がいつ裏切るか分かったもんじゃないぜ。」 健太はすでに会計をしてお金を払っていた。そしてそのまま出て行ったので、ノブは慌てて健太の後を追いかけた。 福原 信雄(通称ノブ) リベリオンズ参加 「健ちゃんも大胆なことするぜ。」 「あいつは目を見ただけで分かった。どこか違う雰囲気を持っていたからな。」 二人はもう完全に昇ってしまった太陽の光を浴びていた。心地よく温かい朝の光が二人を包んだ。 そこに一人の少女が起きてきた。 「おはよう、今日も朝から早いなぁ。」 そうこの子はノブのおかげで見つかったといってもいいものだ。 まさか生きてるとは思ってもみなかった。その子の胸には銀に光るライオンのレリーフのついたロケットがさげてあった。 |
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