旅立ちの章4
― 狩人の力 ―
ルークが目覚めるとふかふかなものの上に寝ているのが分かった。
起きようとしたが身体が思うように動かない。
しどろもどろしていると声をかけられた、そよ風のように優しい少女の声だ。
「お目覚めになりました?ご気分はどうですか?」
何故自分がここにいるか分からない、ルークは適当に返事をした。
「ああ。」
「よかった、あなたが村の入り口で倒れているのを見つけた時はどうしようかと思いました。」
ルークはようやく自分がどうなったかが分かった。
つまり自分は隣町の入り口付近で力尽きて倒れてしまい、この声の主に助けられたのだ。
「どうやら迷惑をかけたらしい、ありがとう。」
「どういたしまして。」
とりあえず身体を起こした。まだ身体の節々に塊があるようなかんじだった。
それと気付いたのは確かに負った傷が完全に塞がっていたことだ。
普通あの傷ならば1週間は治らないはずなのだがそれがなかった。
そのことはとりあえずにしておいてルークは声の主を確認した。
後姿だけだが青みがかかった白い服を着ていてショートカットのけっこう小柄な少女だった。
そしてその少女が振り返った時にルークは驚いた。
(メル!?いや、そんなはずはない。)
なんとその少女はとても自分の妹に似ていたのだった。
髪の色と目の色以外はメルとさほど変わりがなかった。
何かが抜けたような顔をしていたルークに少女は話しかける。
「どうしたんですか?あまり動かないでくださいね、あなたの身体は限界を超えていたんですから。」
「ああ、ごめん。そういえば名前を聞いていなかったね、俺はルーク。」
「私はマナっていいます。ここで医者のようなものをしているの、正確には施術士っていうんだけどね。」
「医者?なんだそれは?施術士っていうのも何か分からないな。」
「もしかしてあなた・・・ここから20キロほど離れたあの村の人?」
「ミオス村に住んでいたよ。」
「ああ、やっぱり。あそこの人たちってあまりこちらに来ないし、自給自足の村って聞くし仕方ないか。」
「何かまずいことでもあるのか?」
「うん、あそこの村の人は<狩人>って呼ばれてるの。あの場所で一生を過ごして外に一度も出ずに死ぬ人もいるんでしょ?」
「ああ、いる。」
「つまり外を知らないってことは何も知らないってことなの。あなた達は狩りの腕と収穫することができれば生きてけるからね。」
「言われてみればそうかもしれない・・・俺は何も分からない。」
ルークはものすごく落ち込んだ顔をした。
マナはそれを察したのか。
「でも大丈夫よ。ここの人たちは皆あなたたちのことは理解してる、人間なんだから色々いて当然なのよ。」
「そういってもらえるとこちらもありがたい。ところで聞きたいことがあるんだ。」
「どうしたの?」
「王国騎士の募集がそろそろ来るっていうからここに来たんだけどいつ来るかな?」
「明後日だったと思う。あなたは騎士になりたいの?」
「父さんにそうしたらいいと言われた。」
「へぇ〜、もしよかったらそれまでここにいる?」
ルークは驚いた顔をした。
「いいのか?でも助けてもらったのにさらに迷惑かけるわけには・・・」
「他に行くアテないんでしょ?ここはいつでも空いてるから大丈夫よ。」
「すまない、その言葉に甘えてそうさせてもらうよ。さてと。」
ルークはベットから跳び起きた。
マナは少し心配そうな顔で、
「安静にしないとダメですよ。」
「大丈夫、身体ももう動きたくてたまらないみたいだ。何かしようか?」
「あら、あなたに何ができるの?」
ルークもそういわれると少し困った。ちょっと悩んだ末、
「そうだな、何か作ろうか?犬小屋とか、時間さえ許せば家でも建てられる。」
「そんな特技があるの!?じゃあ手伝ってもらおうかな。」
そういうとマナはルークを裏庭に連れて行った。
ルークはそこですごいものを見てしまった。
全長2メートルはありそうな2足歩行の大トカゲだった。前足の代わりに2つ大きな翼がある。
そしてつぶらな瞳でこちら側を見ている。
「ライ、こっちに来て。」
その大トカゲはのしのしとこちらに向かってきてマナの前で立ち止まり顔をなめた。
一瞬だけしか見えなかったが鋭い牙も持ちあせているようだ。
だがルークはこの程度では驚かなかった、もっとすごい魔物を見ているからだ。
「ライを見ても驚かないの?」
「ああ、全く。俺はもっとすごいものを見ているからな。」
「そう、ここの村の人はこの色々な怪物(モンスター)たちと生活しているのよ。」
「へぇ・・・この大トカゲ「ライ」っていうのか?」
「そうよ。このモンスターはワイバーンっていわれる前足が翼の大トカゲなんだけど割と大人しいものなの。」
「オス?メス?」
「名前からも分かるようにオスよ。あらあらライったら。」
ライは少しルークの様子を見てから顔をなめた。
意外とワイバーンの舌というのは渇いてるので唾液がたくさん付くことはなかった。
「どうやらあなたのことが気に入ったみたいよ。」
「オスなのにか?」
「モンスターには人間に対して異性なんて求めないの、でもライが人になつくのは珍しい。」
「そうか、でも俺は何をしたらいいんだ?」
「その子の小屋を作ってほしいの。最近はあまりかまってあげられなくて。」
「分かった。じゃあ俺が泊めてもらうかわりに小屋を作ればいいんだな?」
「そういうこと。」
「それと今思ったけどワイバーンってドラゴンじゃないのか?」
「ドラゴンはね、ワイバーンの産んだ卵のうち1000万の1の確率で生まれてくるものなの。だからワイバーンの顔はドラゴンに
そっくりなのは当然なのよ。」
「それはものすごく低い可能性だね、俺は一回だけドラゴンが上空を飛んでいるのを見たことがある。」
「そうなんだ・・・とりあえずよろしくね、どんな小屋ができるか楽しみにしてるから。」
「おう、まかせとけ。」
マナはそのまま医務室へいってしまった。
ルークはどんな小屋にするかライを見ながら考えた。
「なあどんな小屋がいい?」
ルークはライの首を撫でながら言った。
ライは気持ち良さそうに少し息を吐いた。
(よし、実行あるのみ。)

マナは今日の仕事は終わったのでとっくに今日は切り上げているであろうルークのベットまで行った。
入ります、といってドアを開けてみたがルークは部屋にはいない。
まさかと思って裏庭まで行くと案の定まだ作業が続いていた。
もうとっくに日が沈み辺りはくらいのにルークは作業を進めている。
ライもルークを手伝っていた。
ルークはこちらに気が付いたようだ。
「仕事は終わった?こっちはもう半分ぐらい出来た。これもライが手伝ってくれたからだな。」
ルークはライの首を撫でてやった。
きゅ〜と鳴き、リラックスした様子で褒められたことが分かっているようだった。
ライを撫でているルークはまるで飼い主のようだった。
「あ、ライって何食べるの?」
「ええ?何?聞いてなかった、ごめんなさい。」
マナはあまりにライがルークに懐いてるのに見とれていて気付かなかった。
「ライってイノシシの肉食うのかな?」
「ライはお肉なら何でも食べるわよ。もしかしてイノシシの肉をあげるの?」
「ああ、ちょうど木材を持ってくるときに見つけてね。その辺の棒切れを投げたら上手いこといったんだよ。」
「ええ!?棒切れを1回投げただけで仕留めれるの?」
「いや、今回はうまくいっただけ。ご褒美に食べさせていいか?」
「そうしてあげて。」
ルークは袋からイノシシを取り出した。もう解体された状態だった。
ルークがイノシシの肉を投げるとライは上手にキャッチし、骨も気にせずバリバリと平らげてしまった。
あっという間にイノシシはなくなってしまった。
「おお〜、全部食べてしまったか。本当は俺の分もあったんだが・・・」
「大丈夫ですよ、もう食事はできています。」
「本当か?俺も誘われちゃっていいのか?」
「ええ、もうここで3日間は一緒なんですから食事ぐらいはこちらで準備しますよ。」
「それはありがたい。」
ルークは再びライのほうに向いて、
「よし、今日はここまでだ、お疲れさん。ゆっくり休んでまた明日やろうな。」
ライはきゅ〜と鳴いて返事をした。
マナが先に家に入ったのでルークは後を追うようにして家に入った。

ルークはさっそく食事を取った。
マナとこの町のことや色々なことを話した。
結果やはりこの話になる。
「あなたはどうしてここに来たの?」
ルークは正直に起こったことを話した。
村が襲われたこと、家族をなくしたこと、村を自ら焼き払ったこと。
マナの顔は青ざめていた。
どうやらウソをついていたほうが正解だったようだ。
「・・・そうなんですか・・・。」
「ああ、でも俺は前しか見ない。父さんにそうしろと言われた。」
「あなたは強いんですね。」
「弱いさ、未だに妹が夢に出てくる。だからあの黒い魔物の正体を暴き、その長の首を取る!それを果たすために俺は騎士となる。」
「力を手に入れるために?」
「それもあるけどやはり外の世界で過ごすにはまだ俺は無知だ、だからこの世界で生きるすべも学びたい。」
「やっぱりあなたは強いのね。」
「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくよ。それとそろそろお客様しゃべりはやめてほしい、こちらも気が重くなる。」
「でも間違いなくあなたは私よりも年上ですよ、今年で私は13歳です。」
(うそだろ!?その雰囲気で13歳?)
「そ、そうなんだ・・・まあちょっとづつでいいからそうしていこう。」
「はい、分かりました。」
「じゃあ俺はもう寝る。明日も小屋作りで大忙しだからな、お休み。」
「お休みなさい。」
マナはぺこっとお辞儀をした。
ルークも一度頷いて部屋へ向かっていった。
マナはふと思った。
(狩人の力は狩りの腕だけじゃなくて動物とも心を通わせることが出来るのかもしれない。)
何故だか分からないがマナはライが嬉しそうなのが自分でも嬉しかった。
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