旅立ちの章3
― 孤独の道 ―
隣町へは細いが一本道だったので迷うことはない。
しかし20キロという長き道のりである、歩いていくならば5時間はかかってしまう。
ルークが村を出たのは大体お昼過ぎだったので真っ暗になる前に着くかどうかは微妙なところであった。
ルークは歩き続けたが昨日一睡もしてないせいか歩くペースが遅い。
疲れるのが早くなり、ついには座り込んでしまったが隣町へはまだ半分ぐらいある。
ちょっと休んでから再出発したが日も傾きだした。
そんな時、一つの木製の小屋を見つけた。
ちょうど隣町と村を往復する人間が休んだり、泊まったりできる便利な小屋だった。
この小屋の存在は知っていた、幼いころに1度だけこの道を通ったことがあるからだ。
ルークは今夜はこの小屋で休み、明日の早朝に隣町に向かうことにした。
「お邪魔します。」と、とりあえずの挨拶をして小屋の中に入った。
誰もいないのは当たり前だが、ホコリっぽかった。
一歩前へ出るたびに埃が舞うような感じだ。
最初に窓を開けた。涼しい風が小屋の中に入ってきた。
それから少しだけ掃除をした、そうでもしないと埃のせいで寝れないような状態であったからだ。
掃除も一段落したので腰を下ろした。
あれからこんなに落ち着いたのは初めてかもしれない。
(隣町に着いても何をすればいいか分からない、俺はこの世の中で生きていくにはあまりにも無知だ。俺は村のことしか知らない。
隣町に何があるかさえも分からない。もうかれこれ10年来に隣町にいくのだから当たり前だと自分で思うが・・・)
ルークは段々不安になってきた。
(やっぱ俺はこの世界を知らなさ過ぎたんだ。村にいれば何も不自由はない、ただ狩りをしたり、作物を収穫するだけでいい。本を読むこ
となんかしなくても生きていけた。でも今は違う、村から離れたからにはそこへ順応しなければならない。一体どうすればいいんだ。)
いくつか色んなことを考えてみたがどれもぱっとしなくていいものが思いつかない。
仕方なく今日はもう寝ることにした。
ルークはベットに思い切り飛び込んだ、埃が中に舞った。
やはり掃除不足であったが我慢して寝ることにした。外で寝るよりよっぽどマシだ。
空腹だったのでなかなか寝付けなかったが睡眠不足だったのか一線を越えるとすぐ眠りに入った。



「・・・お兄ちゃん、起きて朝だよ。」
いつもの聞きなれた声で起こされた。目を開けるとメルがいた。
ルークは信じられない、といわんばかりの顔をした。
「め、メル!?」
「どうしたの?そんな顔して何か悪い夢でも見た?」
(夢?そうか今までのは夢だったんだ。そうだ、そんなことあるはずない。どうしたんだ俺は。)
「ああ、ちょっとな。」
ふ〜ん、とメルは言ってすぐに笑顔になった。
「ご飯できてるよ、すぐきてね。」
メルは食事場へ向かって行った。
ルークはいつもように服を着替えて食事場へ行った。
すると様子がおかしいかった、さっきまで晴れていたと思っていたのにドアを境に暗くなった。
突然叫び声が聞こえた。
「きゃあぁ!!!お兄ちゃん助けて!いやあぁ!!」
ルークは声の場所へ走った、例の倉庫だった。
たどり着くとあの時浮かんだ光景だった。
叫びながら助けを求めている妹と黒い魔物が対峙している。
黒い魔物は目に留まらぬ速さで妹に襲い掛かった。
妹は魔物にのしかかられて身動きが取れなくなった。
そして魔物は心臓をえぐり出し、それに喰らいつく。
人形のようになってしまった妹の内臓を一つ一つえぐり取って捨て、身体に喰らいついた。
あっという間に妹は肉片になり、辺りは血の池と化した。
どこからもなく声が聞こえる。
「痛いよぉ!!痛いよ!!どうして助けに来てくれないの、お兄ちゃん。」
ルークは頭を抱えて伏して叫んだ。
「やめろ!やめろおぉぉぉぉ!!」
「やっぱりお兄ちゃんは私のことを愛してくれていなかったのね。」
「違う!違うんだ!!俺は家族を、お前を愛していたさ!」
「違う?だって私を助けてくれなかった。あれだけ叫んで呼んだのに!」
「仕方なかったんだ、あんなことが起こっているなんて知らなかったんだ。」
「じゃあ知らなかったらどこで誰が死んでもいいのね、お兄ちゃんは・・・さようなら。」
「違う、違うんだ!」
メルの声は聞こえなくなり、辺りの景色がなくなり光の中に入れられた。
ルークは伏したまま泣き叫んだ。
そこへ足音が聞こえた、聞きなれた大人の足音だ。
(父さん?)
一度振り返るとグレイがいた。まだ生きていた時のような元気な顔だった。
「ルークよ、大丈夫か?」
「父さん!」
ルークはグレイに抱きついた。
「俺はどうしたらいい?どうしたらいいんだよ!」
「さっき見たのはお前の負の面の想像に過ぎない、気にするな。メルはお前のことを怨んだりはしない、絶対にだ。」
「想像?」
「そうだ、あまりにも負の面が強すぎて夢に出てきてしまったんだ。」
「・・・・。」
「あまり時間がない、手短に言うぞ。」
「・・・・。」
「お前は隣町に向かうようだ、だったらとりあえず役所に行って聞きたいことを聞け。それから・・・お前も王国の騎士になればいい。
そろそろ隣町にも兵士募集が来るはずだ、それについていけば大丈夫だ。あとはお前の好きにするがいい、村を作り直すのもいいし、その
まま王都に暮らすのもいいだろう。この先お前にはたくさんの困難と岐路があるだろう、だが絶対に立ち止まるな前にだけ進め!それが
父さんがお前に言える最後の言葉だ。生きろよ最期の時までな。」
グレイはその言葉を残すとあの魔物のように砂になって消えていった。



ルークは目覚めると汗びっしょりだった。
もう朝日は出て来ていてが辺りは少し明るくなってきてる。
しかし空気が不気味だった、鳥のさえずりさえも聞こえない。
ルークが鎧を着て斧を背負って出発しようとした時、後ろでがさがさと音がした。
振り返るとあの黒い魔物がいた。どうやら昨日の生き残りみたいで自分を追ってきたみたいだ。
ルークは斧の柄に手をかけた。魔物は突如襲い掛かってきた。
一瞬だった。ルークの振りかざした斧は魔物を見事に一刀両断した。
例の叫び声が聞こえて魔物は砂と化した。
しかし自分もそれなりの損傷があった。
左腕を引っかかれたのかばっくりと皮膚が割れている状態だった。
だがルークは非常に吹っ切れた表情だった。
(立ち止まるな前だけに進め、か。そうだ、俺が皆のことを覚えていれば皆は永遠に生き続けることができる。ありがとう、父さん。)
ルークは傷口を破いた服で締め付けて止血をしたがなかなかしっかり止まってくれない。
急いで隣町へ向かった。
何もない一本道をルークは走り続けた。鎧が重くてしかたなかったがさっきみたいにまだ残りがいたときに困るので着ていることにした。
そして隣町に入り口が見えたときにルークは気を失った。
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