旅立ちの章2
― 悲劇の雨 ―
ルークが村の近くまで来ると焦げ臭く、炎が上がっているのが見えた。
(やっぱり火事だな。誰だろう火事を起こしたのは?)
ルークが村の出入り口に着いた時にそこで黒く動いているものを見つけた。
ルークは目を疑った。
その黒いものは人間のように2本の腕と2本の脚があり、翼が生えている。
そして転がっている人間を食い漁っている。
顔を見るとなんともグロテスクでよだれを垂らしてこちらをにらみつけた。
目がギラギラとしていて変な光り方をしてる、身体の表面は何らかの液体のせいでぬめっとしていそうだ。
その黒いものはルークに襲い掛かろうとした時黒いものは後ろから矢を射られた。
声かも分からない音の後、その黒いものは砂と化した。
その砂が消えた後、グレイが姿を現した。
しかし、すぐに倒れてしまった。
「と、父さん!?」
ルークはすぐに駆け寄り、倒れたグレイを抱えるようにした。
煙のせいで周りがよく見えなかったので何が起こっているのかまったく分からなかった。
「何があったんだ!?」
「よ、よく聞けルーク。父さんの話をよく聞くんだ。」
ルークは気付いたことがことがあった。
抱えている手にぬめっとした液体がついた。
(これは血!?これは重症だひどい。)
ルークはとりあえず深呼吸をした。
「何があったんだ、父さん?」
「つい10分前のことだ。いきなり村の中心に大きな黒い穴が開いたんだ。その黒い穴からみるみるあの黒い魔物が出てきやがった。
魔物は次々と村の人たちを襲い、村を焼き払った。父さんは3分ぐらい経って気付き外に出たら村の人はほとんどやられていた。
そしてメルを家の倉庫に閉じ込めておいてその魔物たちと戦った。やはり年のせいか体力がもたなかったみたいだ。不覚にも背後を
取られてしまった。そしてこの様だ、情けない。王国の騎士も落ちぶれたものだ。」
ルークは信じがたい話を聞かされ困惑していた。
さっきから嫌な臭いがするのはきっと血の臭いだろう、グレイの言葉が本当に起こった事というのを現実として伝えてくる。
そして気になることもあった。
「王国の騎士って?魔物って?」
グレイはもう余裕がない顔で、
「お前が生まれてくる前まで父さんはこの王国の兵士だった。だが色々あってな・・・やめたんだ。」
「そうだったのか、俺父さんのこと何も知らなかったんだな。今さら気付いた。」
「ははあ、くそ。父さんはもうダメだ、ルーク。メルを早く見つけてやってくれ、頼んだぞ。」
急にグレイの身体から力が抜けたのがルークには分かった。
揺さぶって応答をさせようとした。
「父さん?なぁ、どうしたんだよ!おい、父さんはまだ死んだらいけないだろう!」
グレイはもう返事をしない、さっきより体温がなくなった気もする。
ルークの目には涙があふれていた、火山の噴火のように一気に流れ出した。
「父さん!父さあぁぁん!く、うわあぁぁ!!!!」
すると当然雲行きが怪しくなってきた。黒い雲が上空を覆った。
そしてルークの涙のように一気に降りだした。
(メル?そうだメルはどこだ?)
ルークはグレイをその場所に置いて家へ走った。
途中村の住人がたくさん転がっていた。
さっきのように魔物に食いちぎられた死体もあった。普通の人間ならばこれを見たら気が狂うだろう。
だがルークの頭の中は妹のメルのことでいっぱいだった。
家に着いてドアを開けようとしたが少し戸惑った。
最悪の事態がそこにあるのを想像したからだった。
ルークは想像を振り払い、ドアを開けた。
とりあえずキッチンを探すことにした。
今日食べるはずだったシチューは床に散乱していた。
少し探したが見つからないのでグレイが言っていた倉庫に向かった。
嫌な想像ばかりがルークを埋め尽くしていった。
(メル無事でいてくれ!)
しかし、その願いは届かなかった。
妹らしきものが倉庫の前に転がっていた。もう妹の身体は原形をとどめていなかった。
状況から予測すると力ずくで倉庫をこじ開け中にいる妹を引き釣り出して殺害したと思われる。
一面は真っ赤に血で染まり、肉片があちらこちらに散らばっている。
妹の死体らしきものはさっきの死体同様食われた形跡があった。
ルークはそれを見ると力なく座り込んだ。もう目からは光が失われていた。
自分の妹がこの場で泣き叫びながら助けを呼ぶが魔物たちに殺され、食われているのが鮮明に浮かび上がってきた。
ルークは自分の無力さに対する怒りと魔物に対する憎悪で心が埋め尽くされた。
(俺がもっと早く帰ってきていれば・・・待てよ、もし早く帰って来ていても俺は魔物に太刀打ちできたのだろうか?)
雨の音だけが聞こえる。いつも活気で賑わっていた村の面影はもうない。
ルークはもう何も考えることができなかった。

<翌日>
雨が降ったせいか空気の澱みがなくなっていた。
ルークは昨日座り込んだところから一歩も動かずじっとしていた。
というよりも動くことが出来なかった。
あまりのショックで動くこともできないのだった。
眠気も食欲も出てこなかった。
何も考えず、ずぅ〜と遠くを見ていた。
しかし、おもむろにルークは立ち上がった。
そして村の死体を埋葬するために死体をそれぞれの家の前に運んだ。
もちろん親友であるレインのものも見つけた。
もう原形をとどめていないものもあってどこの家の人かも分からないものもあった。
ルークは死体を触るのを躊躇しなかった。
いずれは誰かがやらなければならないことを村の住民である自分がするのが当然と思っているからだった。
しかし、今のルークはそんなことは考えていない。ただ黙々と死体を処理するだけだ。
ようやく全部の死体を運んだ時にはもう昼を過ぎていた。
この村はほぼ完璧に壊滅状態だったので食料がない。
それよりルークは食欲が湧かなかった。
ルークは村を出る準備にかかった。
少しづつだが自分が戻ってきたような気がしてきた。
とりあえずここを出たかった、これがルークの本音であった。
そしてグレイの部屋のドアノブに手をかけた。
(父さんがもし王国の騎士ならば・・・)
ドアを開けた、いままで嗅いだことのないにおいがした。
(やっぱりあった。)
部屋の隅においてあったのは鎧だった。
鎧といえども胸のあたりと肩だけ守れる上の鎧と鉄のレガース(すね当て)だった。
ルークはその鎧のセットとタンスにあったグレイが村を出て行く時だけ来ていく服を着て部屋を後にした。
(もう俺も親父の服を着れるようになったか。)
グレイの鎧は青い色の鎧ですごくたくさん傷のある鎧だった。
この軽装鎧からみるとグレイは相当な腕の持ち主であることがよく分かった。
頭につける鎧も見当たらなかったのもその要因の一つだ。
ついでにルークは家にあった斧を背中に負って家を出た。
もう一度だけ家を一回りした後、油を村中に撒いた。
そして村を出るときに火をつけた。
村が何かに取り付けれたかのように勢いよく燃え出した。
10分もしないうちに村は炎に包まれた。
幸いにも村の周りの木はきこりである自分が何年もかけて切り倒したので森に燃え広がることはなかった。
少しの間燃え続けるのを見て村を後にすることにした。
ルークはとりあえず隣町までいくことにした。
隣町まで大体20キロはある、夜までに間に合うかとルークは心配したがもう後戻りは出来ない。
ルークはしっかりとした足取りで隣町まで向かった。
(昔父さんが言っていた。「全ての生命は最後は土になる、そしてその土は更なる生命を生み出す。」次来る時は木が生い茂っていて
村があったなんて分からなくなっているかもな。俺はもう後戻りはできない、俺は魔物の長を見つけて抹殺するまでここには帰ってこない。
今度帰ってきた時にはお墓を立てて皆の冥福をきっちり祈ろう。)
ルークはこの出来事をしっかり胸にしまっておくことにし、魔物への復讐を誓った。
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