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森の中、イノシシが周りを警戒するようにうろうろと動き回る。
それを弓を引きをじっと待ってる金髪の少年がいる。 少年は息を殺し必中の瞬間を窺っている。 しばらくするとイノシシは警戒を振り払ったのかその地面に伏した。 少年はその瞬間を逃さず矢を射った。 矢は真っ直ぐイノシシの心臓付近に突き刺さった。 イノシシは一度起き上がったが力なく倒れた、即死のようだ。 少年は倒れたイノシシに近寄り、弓で突いてみた。 動く様子がないのを確認したので背中に負っていた斧を振りかざし、イノシシを解体する。 イノシシは血を抜かないといけないので解体すると血抜きが楽であり、持ち運びも楽なのだ。 少年はバラバラに解体したイノシシの部位を棒に取り付けて血抜きをしながら家に帰ることにした。 少年の名は「ルーク」今年で15歳。若いが狩りの腕は大人顔負けである。 弓だけで狩りだけでなく、斧を使って木こりもしている。 ルークは父親のグレイ、2歳下の妹のメルとの3人家族で母親は5年前に他界している。 ミオス村という田舎の村で平和に過ごしている。 ルークが家に着くとグレイは家に帰ってきていた。 「ルークか、どうだ?狩りは上手くいったか?」 「父さんは?」 「さっぱりだ、父さんも腕が落ちちまったな。」 「それは残念だ。俺は今日はこれだけだ。」 ルークはすでに血抜きが終わってるイノシシの肉を机の上に置いた。 グレイは少し感心した表情で、 「これはイノシシか?なかなか良質なものだな。父さんもルークにはそのうち追い越されるかもな。」 「父さんにはまだまだかないそうにないよ。今日は獲物が上手いこと父さんを避けてしまっただけ。」 「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。」 「ウソじゃないさ。」 (そう、俺が父さんに追いつけるわけがない。父さんは現代最強の狩人だ。) グレイは村の中では一番の狩人だ。 狙った獲物は逃がさない、肉を裁くのもルークの何倍も上手い。 ルークはそんな父を尊敬している。 だからルークは「父に追いつく」なんてものは考えたことがない。 ルークが行く先には必ずグレイがいる。 ルークは父こそが自分の最終目標であると今も思っている。 父と会話していると買い物を済ませてきた妹のメルが帰ってきた。 「2人とも帰ってきたの?いつもより早かったね。」 「ああ、俺はもう今日は取ってきたから帰ってきただけ、父さんはダメだったみたいだ。」 グレイは少しため息をついたが何も言わなかった。 メルは机の上の収穫を見て、ルークに言った。 「すごい、こんなに取れたの?」 「そうだ。すまんがちょっとレインのやつとの約束思い出したから今から行ってくる。」 「今日はこのお肉を使ってシチューにするからね。」 「そうか。」 ルークはそう言うと家を出て行ったので家にはグレイとメルだけになった。 メルはせっせと夕食の準備にかかった。包丁で野菜を切り、肉に下味を付けていた。 グレイはどうしても腑に落ちない点があったのでメルに聞くことにした。 「どうして今日のルークは元気がないのだろうか?なぁメル。」 「今日はお母さんの命日よ、まさかお父さん忘れてたの!?」 「ははは、父さんが母さんの命日を忘れるわけないだろう。とっくに墓参りに行っている。」 「あれから5年が経ったんだねぇ。」 「そうだな。」 「お父さんはお母さんのことまだ愛してる?」 「当たり前じゃないか、父さんには母さんしかいない。母さん以上の人はいない。」 グレイはそれきり黙って狩りの道具の手入れをしだした。 メルもこれ以上聞くことはないと思い、夕食の準備を進めた。 ルークは狩り仲間で親友のレインの家の前に着き、ドアをノックした。 ドアの向こうからバタバタという足音が迫ってきて、ドア前でやんだ。 「どなたでしょうか?」 声の主はレインではないらしい。 「ルークです、レインをお願いします。」 「ルークくん?分かった、今呼ぶわね。」 どうやらドアの向こうにはレインの母がいたらしい。 レインの母は村中に響き渡るような大きな声でレインを呼んだ。 ルークもレインの母親の声の大きさにはいつも圧倒されるが何年も聞いているので少しは慣れてきている。 レインが母親に少し文句を言ってドアを開けた。 「ルークどうした?」 「今日は母さんの命日だ。今年も付いてきてくれるか?」 「悪ぃ、今大事な用事があるんだ。今年は悪いけど他にあたってくれ。」 「分かった。今年は俺一人でいくことにするよ、ありがとう用事があるのにわざわざ出てくれて。」 「いいって、いいって。じゃあな。」 レインはルークの別れの挨拶を待たずにドアを閉めてしまった。 ルークは(何かあるのだろう。)と思ったのですぐにドアから背を向けた。 この村の墓場は村から15分ぐらい離れたところにある。 ルークが村の出入り口に着いた時にちょうど隣の家のおばさんと出会った。 「おばさん、こんにちは。」 「おや、ルークかい。今日はどこに行くんだい?」 「ちょっとお墓まで、今日は母さんのだから。」 「あら、そうだったわね。おばちゃんも何かお供え物でも。」 「いえいえ、今日はその辺にあるリンドウの花でいいので。」 「そういえばお母様はリンドウが大好きだったわね。たくさん持っていっておやり。」 「そうします、さよなら。」 「さようなら、ルーク。」 おばさんが手を振って送ってくれたのでルークも振り返した。 ルークは道端に生えているリンドウの花を丁寧に摘み、その葉で束ねた。 リンドウの花は大体20センチぐらいまで伸びて春に青い花を咲かせる。 ルークの母が最も好んでいた花だった。 花を摘んでから10分ほど歩くと墓場についた。 現在は8列のお墓があるが母の墓は4列目の一番目にある。 棒切れを十字にしたものを突き刺しただけの簡単なお墓だがすでリンドウの花が置いてあった。 もちろんのことながらグレイの置いていったものである。ルークもそれは理解していた。 ルークはその花束の上に自分の花束を置き、黙祷をささげた。 そして母親に近況報告をした。 今の自分がどうなっているのか、家族はどうなのか、最近起こった出来事などを話した。 「・・・でさぁ、あいつってばバカでさぁ・・・もうこんな時間か。」 ルークが空を見るともう日が沈みかけていた。 「もう時間みたいだ、皆が心配するといけないから帰ることにするよ。」 ルークが墓場を出ようとしたその時、村の警鐘が鳴った。 警鐘とは村で何かが起こった時に鳴らすものだ。 村の方から煙があがっている。 (火事でもあったのかな?とりあえずさっさと戻るとしますか。) ルークはちょっと駆け足で墓場を後にした。 |
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