旅立ちの章5
― 戦士の心 ―
ルークが隣町に来て3日目、今日は兵士募集の人間が来る日だ。
3日も経つと町の風景にも慣れてきて通り行く人とも話をするようにもなった。
マナのペットでもあるワイバーン、ライの小屋製作もすでに最終段階で後は屋根を乗せるだけだ。
さすがに屋根になると自分では載せることができないのでライにそうするように必死に伝えた。
伝えるのに20分ほど要したがライは分かったのか、口で屋根を持っていき上手いこと載せた。
周りで見守っていた町人から拍手喝采だった。
隣の家の住人からお祝いをたくさんもらい、ライには今日も森で取ってきたイノシシを与えた。
それからルークは町人たちと話をした。自分がミオス村の出身であることも伝えたが特に何もなかったので安心した。
ライは今日は疲れたのか大きな寝息を立てて昼間から寝ている、人語を理解するのはワイバーンにとっては大変だったようだ。
ルークもライの寝顔に誘われたのか眠たくなっていたがそろそろ騎士募集の人たちが来る時間だったので眠気を押して家に入った。
これまでお世話になったマナに一言お礼をするべきと思い、ルークは彼女の部屋を訪れた。
マナは特に何もすることがない様子で机の上に肘を乗せてぼぉ〜としていた。
ルークはその隣に座った。
「今日までありがとう、ライの小屋は無事に完成したよ。そろそろ時間みたいだから俺は出発する。」
「あら、もうそんな時間だったの?じゃあ広場まで一緒に行こう。」
「送ってくれるのかい?ありがとう。」
「もしさ、こっちに帰ってくることがあったらここに帰ってくるといいと思う。ここはいつでもあなたを待っているから。」
「ああ、そうする。なんか新しい家族ができたみたいで嬉しい。」
「家族か。わたしもたまには親に顔を見せないといけないなぁ。」
「そうしてあげるといい、きっとご両親も君を待っていると思う。」
「うん、そうだね。」
マナはちょっと寂しそうな顔をしたがすぐに笑顔に変わった。
ルークはすぐに装備を整えてマナを連れて広場へ向かった。

広場には人だかりが出来ていた。ちょうど中央で募集をしているみたいだ。
ルークとマナは中央まで人をかき分けて進んだ。
そして最前列に立った。
いかにも国家の兵士のような人物が4人広場の真ん中を陣取っていた。間違いなく募集をしにきた兵士だ。
その中でも一番目立つ服装で50代前後ぐらい人物が腕を大きく広げた。
「今から兵の募集を始める!志願するものは前へ出よ!!」
最初は前のほうにいた町人たちもすごすごと後ろに下がっていった。
町人から色んな声が聞こえる。
「おい、まさかあの方は!?」
「四将軍の中でも最強といわれるジェイド将軍か?!」
「何!?ジェイド将軍だと!?」
「すげぇ、俺生で見たの初めてだぁ。」
「こんな辺境の地までわざわざ来てくださって・・・さすがはジェイド将軍だ。」
ルークはマナに聞く。
「なあ?ジェイド将軍ってどんな人なんだ?」
「ジェイド将軍は私たちの国アルメリア王国四将軍の中でも最強と言われてる将軍なの。確か一年前の内乱で一部隊を一人で全滅させたと
か。」
「ようするにとてつもなく強いんだな。」
「そういうこと、だからちゃんとしないとダメだよ。」
「そのぐらいわかってる。じゃあ、俺もう行く。またな。」
ルークは広場に飛び出していった。

「よ〜し、それまで時間切れ。さ〜て、何人いるかな?」
ジェイド将軍は辺りを見回した。
どうやら志願者は2人だけらしい。
これにはジェイド将軍も呆れ顔だった。
「今年はこれだけですか。まあ今の情勢では仕方あるまい。そこの金髪の少年、名は何と申す?」
ルークは一歩前へ出て膝をつけた。
「はっ、ルークと申します。今年で15、ミオス村からやってまいりました。」
「ミオス?聞いたことのない村だ。まあよい、そちの名は?」
ジェイド将軍はもう一人の男性に問う。その男性も膝をつけて答えた。
「はい、ソルと申します。今年で22、この村では保安官を務めておりました。」
「ふむ、そうか・・・おい、レイオンを連れて来い。」
一人の兵士が村の入り口へと走っていくと入り口から端麗な顔つきの少年が現れ、こちらに来てジェイド将軍の隣についた。
真紅のマントに銀色の鎧、どこかの名家の家筋の者だと誰が見ても分かるのだった。
「父上、何用でしょうか?」
「うむ、この2人。どちらが即戦力となりそうだ?」
「そうですね・・・。」
どうやらジェイド将軍とレイオンと呼ばれた少年は親子のようだ。
そのレイオンは2人と少しの間まじまじと見つめ、こう言い放った。
「どうやらこの金髪の少年は「魔力」を持っていないようです。ということでそちらの男性の方がすぐに働けると思われます。」
「やはりか、確かに金髪の少年からは「魔力」が全く感じられない。どうしてか分かるか?」
「僕の推測によると彼は卑しく汚らわしい「狩人」の者でしょう。この国の一般人はマナの修得は必須ですから。」
「そうか、「狩人」の者か。ならば「魔力」が感じられないのも頷けるな。仕方ない、こちらの男性だけを採用することにしよう。」
「僕もこんな汚い人間とは関わりを持ちたくない。すぐに王宮に帰還いたしましょう、父上。王が待っておられます。」
「レイオンが言うならば仕方あるまい、採用はソル。お主だけだ、ルークとやら今回は残念だった。また来年に期待しておる。」
「は、将軍閣下。このソル、一生の幸せであります。」
ソルと呼ばれた男性はジェイド将軍とレイオンと呼ばれた少年の後を歩いた。
ルークの手は震えていた。
何故俺だけが、という思いが増幅し、さらに怒りがこみ上げてきた。
ルークは駆けていきジェイド将軍の前で膝をつき、言った。
「何故私は不採用なのでしょうか!?理由を聞かないと私は納得できません!」
ジェイド将軍は少し驚きをみせたすぐにいつもの温和な顔に戻った。
「お主には「魔力」がない。「魔力」を修得していなければ国を守ることも魔物を討伐することも出来ない。それではいけないことがお主
にも分かるな?」
「でも、私は・・・父との約束を・・・私の村は先日黒き魔物に襲われ壊滅いたしました・・・帰る場所がありません。」
「分かった、ではこうしよう。レイオンを打ち負かすことが出来ればお主の入隊を許可しよう。レイオン「魔力」が何たるかを教えてやれ。」
「は、父上。広場へ来るがいい、汚き者よ。」
ルークはレイオンの後について広場へ戻った。

広場で人だかりが円形に出来ていてもう準備整っているようでもあった。
レイオンとルークが対峙する。
一瞬の静けさ、レイオンが口を開く。
「魔力でなしで僕に勝とうなど・・・笑止!己の愚かさその身に刻むがいい!」
「レイオン殿、私も本気です。あなたが嫌う狩人の力、どの目に焼きつかせるでしょう。」
レイオンは剣を抜き構える、ルークも背負っていた斧を持った。
ジェイドが言い放った。
「始めぇい!」
ルークは一気に間合いを詰めて思い切り斧を横に振った。
レイオンは何事も無かったかのように剣で斧を止めた。
しかし、顔は少し焦り顔だった。
(こいつ、スピードとパワーが並外れている。普段なら避けれるはずなのにそれさえも許さない。)
ルークはすぐに斧を引き縦に振った、相手は反応が遅れて肩に見事当たった。
鎧があるから大丈夫と思ったものの普通ならひびが入る・・・はずだった。
だがレイオンの鎧には傷一つ付いていない。
するとレイオンの右腕から光が出てそこから突風が吹いた。
ルークは5メートル以上吹っ飛んだ。
(本当に速い、さっきのは見えなかった。相手は間違いなく振り遅れるはずの斧だというのに・・・面白い。僕をここまで楽しませてくれる
とは。)
ルーの身体からは血が噴出していて真っ赤になっていた。
だが立ち上がり斧を構える。
レイオンは驚いている。
「お前まだ立つつもりか!?魔力を生身に受けてまともに戦えるとでも思っているのか!」
「レイオン殿、まだ私は負けておりません。まだ戦えます。」
ルークの息は絶え絶えだ。すぐに倒れてもおかしくない。
レイオンはまたも剣を構える。
「そこまでいうなら、ここで死ぬがいい!」
思い切り間合いを詰めてレイオンは剣を振りかぶった。
ルークは斧で防御したが持ち手の部分が木製だったので見事に切られてしまった。
剣はルークの太ももに直撃した。
血がにじみ出る、絶え間なくでていた。
ルークはまっぷたつになった斧を落としてそのまま地面に伏した。
レイオンは剣をしまいその場を離れた。
「なかなかの見世物であった。ルークとやらの戦士の心しかと見たぞ。」
「父上、王が待っておられます。」
「ああ、そうだな。行くぞ、ソルとやらも遅れるでないぞ。」
「は、将軍閣下。」
ジェイド将軍達は町を後にした。
気絶しているルークはマナの家に運ばれ治療を施されていた。

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