外伝 - 5- あの空のように
江井原 大輔(男子3番)鷹山 空(女子1番)






初々しい学園生活に待つ大輔の試練とは?

大輔と空は色々な話をしながら学校へ向かった。
途中誰からも声をかけられることも無く学校に着くと井上先生が校門の前に立っていた。
「先生、おはようございます。」
空は丁寧に朝の挨拶をした。大輔も頭だけ下げた。
「おはよう、鷹山さん。ダ、じゃなくて江井原くん、今日は朝の集会で君は全校生徒の前で挨拶しないといけないのを伝え忘れていたよ。今からちょっときてくれるかな?」
「分かりました。カ、やなくて井上先生。ほな、鷹山さん後でな。」
空は「うん」と返事をして校舎の中へ消えていった。
ダイとカズはそれを見送った後ダイが口を割った。
「そんなん聞いてへんで。しっかりせぇや、先生やっとんやろ。」
「ごめんごめん、いやぁこれでダイもここの生徒か。まあ普通の人間の人生を歩んでみるのも悪くないと思うよ。さっ、行こう。」
ダイとカズは春の風を堪能しながら校舎に入っていった。
「おい、陽ちゃん。あれは誰か分かるか?」
「たぶんはあれは転入生だ。それにしても大きいやつだったなぁ。」
校門のあたりで二人のやりとりを見ていたのは陽平と健太だった。
そこで健太がツッコミを入れる。
「つ〜か高いのは先生だろ。たぶんその隣だよ、まだ陽ちゃんのほうが断然高いし。」
そんなツッコミも聞いてなかったのか陽平のお腹が鳴った。
「腹減った。今日何も食って来てない。」
「バカか?まあいっか、早く行くぞ。」
鳴り続けるお腹を押さえながら陽平は気だるそうに教室に向かった。

<朝の集会>
全校生徒が集まっていてざわざわとしているグラウンドにマイクが入った。
「全校生徒の皆さん、静粛に!」
ゆっくりとだが話し声が聞こえなくなるのが分かった。校長が朝礼台に立っている。
「皆さん、おはようございます。」
「おはようございます!!」
生徒達は大きな声で挨拶した。そして校長がしゃべりだした。
「今日はこの学校に新しき友を迎えることになりました。」
急にあたりがそわそわしだしたが校長が咳払いするともに静かになった。
「では転入生の江井原大輔くんです。皆さん、温かく迎えてあげてください。」
朝礼台に大輔が立った。列が前の生徒は目を見た瞬間に驚きの表情だ。
大輔は一礼し、マイクの電源を入れて話し出した。
「どうも、江井原です。これからお世話になります。」
グラウンドから大きな拍手が起こった。大輔は校長に一礼し台を離れた。
「江井原くんは2−1に転入します。担任は井上先生です。」
2−1の方から歓声が沸き起こった。

<初めての教室>
2−1では転入生のことで話題が持ちきりで騒がしかった。
皆が口々に「どんな子かなぁ?」「すごく背が高かったよねぇ。」「あいつは俺が野球部に入れる。」などと話をしている。
陽平は鳴り続くお腹と格闘しながら健太と会話をしていた。
「健ちゃん、転入生どんなやつだろうな。」
「俺らは校門で見たから姿ぐらいは知ってるぜ。まあ体がでかいことには変わりない。」
陽平が話そうとしたその瞬間に井上先生が入ってきた。転入生はまだ来ていないらしい。
皆は先生と一緒に入ってくるものとして期待していたのでため息の嵐だ。
それに気がついたのか井上先生は手招きでこっちに来るように指示をしていた。
どうやら転入生の方が入ってこないらしい。
「すまない、彼は少しこういうのに馴染んでいないみたいでね。前に来るのが恥ずかしいそうだ。」
皆がはははと大きな口をあけて笑った。もちろんのことながら五十嵐慶吾と柳生美穂は笑っていなかったが。
ようやく決心したのか転入生が入ってきた、表情はいたって普通で緊張の気配は感じられなかった。
転入生はこちらを向いた。その瞬間みんなの表情が凍りついた。その転入生はそのことも知らずにこそこそと井上先生に話しかけていた。
「わい、標準語なんかしゃべれへんで。どないしたらええねん?」
「別に言語なんて誰も気にしないっていつもどおりで大丈夫だよ。さあ、皆に挨拶して。」
大輔は前を向いて挨拶することにした。みんなの目線が自分に注がれているのが分かった。
でも少し様子が変だった。なにかものすごく真剣な表情である。
(なんや?この雰囲気はさっきと全然ちゃうやんけ・・・まあええか。)
「え〜と、わいの名前は江井原大輔ってさっき校長はんがゆうとったやんな・・・え、え〜と、よろしゅうたのんます。」
部屋はし〜んと静まり返っている。大輔はどうもおかしいと思ったが今はどうすることもできないので黙っていた。井上先生が続けた。
「さあ、ここからは質問TIMEです。彼にじゃんじゃん質問してください。」
なにか上げづらそうな雰囲気の中、陽平が手を上げた。
「じゃあ、立花くん。江井原くん、彼はこのクラスの委員長だ。」
「江井原くんはどうして目が青いんですか?」
皆が陽平に注目した。いきなりその質問はだめだろという顔をしているがこれを聞かない限りみんなの心に壁ができてしまうと陽平は判断したのだ。新しく入った仲間が簡単な誤解でいい関係ができなくなってしまうのは悲しいことだと思ったからだ。
大輔はなんの表情も変えずに普通に答えた。
「これのことかいな。いやぁ、実はこれカラコンや。目が悪いからコンタクトかけな見えへんのやわこれが。それだけやでほんま。」
クラス中に安心感が帰ってきたような気がした。しだいに教室がざわついてきて、手が上がるようになってきた。
次に当てられたのは冬野美春だった。
「あ、あの・・・どうして関西弁なのですか?」
「いや、なんでってゆわれても・・・神戸出身やしな。皆も関西弁に慣れてくれたらわいはうれしいな。」
次に当てられたのは佐々木守だった。
「俺達の野球部に入らないか?人数少なくて困ってるんだよ。」
「あ〜、佐々木だけ部活の宣伝してるぅ。そんなのずるいよぉ。」
「そないなことで言い合いしなさんな。部活は全部見学するさかい大丈夫やで。」
いつの間にか大輔はクラスの中に溶け込んでいた。皆も大輔を受け入れ始めたらしい。
空はそれを見ながら安心を覚えた。あっという間の自己紹介の時間が終わり大輔は席に着くのだが。
「大輔くんは委員長の隣がいいかな。じゃあ委員長さん彼をよろしくね。」
(ちょっと待って。委員長の隣って・・・わたしの前の席じゃない。)
大輔がこちらに来て席に座った。大きな背中が眼前に現れた。空は鼓動が速くなるのを感じた。
(ふぅ、なんか今日のわたしおかしいな。どうしたんだろう・・・体が熱いなぁ。)
そんな空のことも気にかけず大輔は隣の委員長と簡単な話をしていた。

<放課後>
「江井原くん、絶対うちの部活来てよぉ。」
「おい、俺らのとこも来いよ。」
大輔は一日の内に皆に知られる存在になっていた。転入初日から居眠りしている生徒は彼ぐらいなのだから。

「ではここを転入生の江井原くんに・・・・。あら、寝ちゃってるわねぇ。」
大輔は堂々とした態度で寝ていた。見ているこちら側も眠たくなるような気持ちのいい寝顔であった。
隣の陽平が起こそうとしたがまったく目を覚まさず死者のように眠っていた。
しかも今行われている授業は最も緊張が走る数学の授業だった。この数学の先生の向居康子先生はとてもうるさがられていた先生だったのだ。康子先生は大輔に近寄って耳元なのに大きな声で
「起きなさい!!授業中ですよ!!」
だが大輔はびくともしない。康子先生は諦めたのか黒板のほうに歩きながら他の生徒を指名した。
「大輔くん、起きて。」
空は耳元でささやいた。大輔は目を開けて伸びをした。
「あ〜あ、よぉ寝た・・・ここどこや?」
皆が大輔に注目してきょっとんとしていた。康子先生は指名した生徒から大輔に変更した。
「さあ、転入生くん。ここの問題を解きなさい。」
「え〜と・・・因数分解して(X+6)(X+8)やろ?」
教室中から「お〜」という歓声と拍手が巻き起こった。康子先生もびっくりですぐに大輔を座らせた。
大輔は後ろを向いて空にグッドと手で見せていた。
「ありがとう、鷹山さん。」

大輔は荒々しく教科書をバッグに詰め込み空のほうを向いて話しだした。
「わい、今日は部活見ていくからどうないしょうかなぁ・・・鷹山さんは用事なんかある?」
「わ、わたし?う〜ん・・・今日はパン屋が開いてるから今から手伝おうかなぁって思ってるんだけど。」
「そおかぁ・・・分かった。じゃあまた明日なぁ。」
「あっ、ちょっと待って。そういえば大輔くんの誕生日っていつなの?」
「ええ?わいの?明日やけど・・・」
「あ、明日!?そう・・・明日空いてるかなぁ?」
「わいか?明日はなんも用事ないけど・・・なんかあるん?」
「いや、そのぉ・・・どこか行こうよ。大輔くんはまだ行ったことが無いところとかあるでしょ?」
「まあ確かにないけど・・・分かった、用事はいれんようにしとくわぁ。鷹山さんは誕生日は?」
「わたしは・・・実は明日。」
「うわ、同じかいな。珍しいこともあるんやねぇ・・・さあ、わいは部活見学でも行くわぁ。」
大輔は大きく手を振りながら教室を出て行った。空は誕生日が同じだったことにびっくりしながらも明日のプレゼントを何にしようかと考えていた。

<次の日(大輔サイド)>
大輔は外からの呼び声で目覚めた。昨日とまったく同じである。窓を開けて相手を確認するまでもなく空だと分かった。
すぐにジーパンをはいてTシャツを簡単に重ね着して外へ出た。
ドアの前には空がいた。とても嬉しそうな顔をしていたが大輔にはどうしてそんな顔をしているのか分からなかった。
「お、おはよう鷹山さん。なんやったけ?」
「もう、呆れた。今日は町に出かける約束だったでしょ、さぁ早く行こうよ。」
「あ〜あ、そうやったなぁ。それにしてもえぇ天気やなぁ。」
(こんな日やったらわいは死んでもえぇなぁ。でも今はすることがあるんや・・・復讐ゆうやつをなぁ。)
大輔は用心のために鍵をかけていつもの植木の下に隠した。
(もう何も取られるものはないんやけど・・・わいはもう全部失っとるんや、何もかもな。わいに残されとうのは・・・このあきあきした人生だけや。)
大輔は考えていることを隠すのが得意だ。殲滅部隊の教育でもそういうメンタル的なダメージを表情に出さない訓練も幾度と無く行ってきた。もう体に染み付いているというのかそれが当たり前になっていた。これは夜の仕事にすごく重宝した。相手を満足させれば金がもらえる。キタナイと思うかもしれないがそれが生きるためにしなければならないものだった。そう海を助けるためでもあった。だからどんなところでも笑うことができるし悲しいフリもできる。相手をオトス術も持ち合わせているのも確かだ。これは殲滅部隊でも選択することができるものだったが大輔は受けていた。どこかのすごいホストから「女のオトシ方」を習うわけだ(なんて差別的な言葉やろ。わいはこんなんやけど差別とかは嫌いや。)わいはそれを完璧に修得した。それのせいで普通に接したくてもできなくてもどかしさを感じるのだ。
「よっしゃ、いくでぇ。」
大輔は満面の笑みとも言わんばかりの顔で空に言った。
「うん、行こう。」
空も満面の笑みで返してきた。本気の笑顔だ。
(ほんまえぇ顔するなぁ・・・わいも鷹山さんの前だけでは本気の笑顔でいたいなぁ。って何考えとるんや、わいは。)
大輔と空はすぐ近くの駅まで歩き、電車に乗って一(はじめ)市の中心地へ向かった(一駅やから歩けばええのに)
その途中大輔は気がついたことがあった。
(いやぁ、それにしても短いスカート履とるし、肩は丸見えの服着てるし・・・ちょっと露出しすぎとちゃうかなぁ。まあわいはそんなことでは動揺せぇへんけどな。わいはそこらの一般人の男やないんや、今まで女に嫌なことされてきたんや。なぁ?なんでそんな服装なんや?わいはやめてほしい。鷹山さんは普通でええのに・・・そんなんせんでも綺麗やのに・・・その格好は昔嫌なことしてきた女達と同じ格好や・・・ほんまに残念や。)

<中心地のメインストリート(空サイド)>
空は後悔していた。自分でも分かるくらいヤバイ服装をしているのを。
(ちょっとやりすぎっちゃったかなぁ・・・でも大輔くんはこれでいいと思ってるのかな?)
隣を歩いている大輔に空は質問してみた。
「今日のわたしどうかな?服似合ってるかなぁ?」
「んん?似合ってるんちゃうかなぁ・・・町の男達も鷹山さんに釘付けやね。」
確かに男達の視線はズキズキと感じていた。自分は大輔だけに見てもらう予定だったのでちょっと恥ずかしかった。
でも大輔が見てるのはそんなとこではないのは会った時から分かっていた。
彼が見ているのはいつも目だ。いつもこちらの目を真剣そうに見て話しかけてくる。話している時は絶対に目を見つめている。
(その青い目がわたしを見つめるたびに「もっとあなたがほしい」という気持ちが駆り立てられる。もっとわたしを見て欲しい。その青く澄んだ目はわたしの全てを見透かしているようで少し怖いけど。その空のような青い目でわたしだけを見て欲しい、そう思うわたしはいけない子かなぁ。一途な思いはあなたを縛り付けているだけなのかなぁ。あなたの気を引こうとこんな服を着たり、無理やりデートに誘ったりすることはあなたにとってどういう風に見えるのかなぁ。わたしっていやな女よね、だってあなたを自分だけのものにしようとしているのだもの。あなたの本当の気持ちはわたしには分からない、だからいつも怯えてるの。あなたが自分の傍からいなくなってしまうのが怖いから。でもね、この気持ちは誰にも譲れない。だってわたしはあなたのことが・・・・・・・)
「なんか考え事でもしてるんか?空ばっか見ちゃって。」
「え!?うんん、なんでもないの。ちょっとお腹が空いたなぁ、どこかで食べようか?」
「ぐったいむ!今ちょうど腹が減ってるところやってん。」
2人は簡単なファーストフード店に入って食事をとることにした。
レジで大輔が注文をしていた。空は先に注文していたので席についていた。さりげなく「スマイル」を頼む大輔を見て空は実に大輔らしいと思えた。
空はちょうど二人が向かい合う席を選んでいた。大輔が来て
「わいは窓側好きやねんけど、どうする?」
窓側は避けるべき場所であった。もしクラスメートに見られたら間違いなく何か言われそうなので空はここで食べようと言う。
大輔は素直に受け止めすぐに席についてハンバーガーにかぶりついた。まるでライオンがシマウマを食べるような感じであったがいつものパンを食べる姿と変わらない。その食べっぷりもまた大輔だから似合うのだと思う。
食事も一段落したので外に出ることにした。さっきより人が増えた感じがしたがそれはちょうど皆が食事を終わって出てくる時間だからである。今は時間を見たところもう3時になっていた。出てくる時間が遅かったこともあるが楽しい時間はすぐに過ぎてしまうものだなと空は思った。
「ほな、鷹山さんにプレゼントするものを買いにいこかぁ。」
「べ、別にそんな・・・そんなの期待して今日呼んだんじゃないんだからぁ。」
「ええねん、わいがプレゼントしたいんや。付いて来てくれる?」
大輔はスタスタと前を歩き出した。空は遅れないようについていったが
(大輔くんこの辺りのこと知ってるのかなぁ?おかしいなぁ、知ってるはずないと思っていたのに。)
大輔が急に止まったので背中にぶつかってしまった。
「ここや、はいろかぁ。」
大輔が普通に入っていったのでそのまま付いていったが中を見た瞬間おどろいた。
入ったのは高級ブランドのファッションショップだった。心配になったので大輔に確認をとった。
「入るとこ間違ってないの?」
「そんなわけあるかいな。女の子はなえぇ服着てな、美しく存在する権利があるんや。」
そう言いながら大輔は次々と商品を選んでいく。空はこんなとこに入るのは初めてだったので緊張しっぱなしであった。
選んできたものを大輔は空に渡した。
「一回着てみぃ。たぶん似合うと思うねんけど。」
空は言われるがままに試着室に入って着替えることにした。渡されたのは少し青みがかかったかわいいワンピースと少し早い夏を思わせるサンダルだった。間違いなく高い商品だというのは分かっていたのでちゃんと上を脱いでから試着した。
そして試着室を出た。それを見た大輔は驚いた顔をしていた。
「わ、わたしに似合うかなぁ?」
「うわぁ、メチャ綺麗やなぁ。少し早い夏のお嬢さんって感じやで。そうやなぁ、いいフレーズつけるとしたら・・・空から舞い降りたお姫様かなぁ。」
「そ、そんなに言わなくても・・・恥ずかしいよ。」
「鷹山さんサイズはどうや?ぴったしか?」
「うん、ちょうどいいよ。」
「そうか・・・じゃあこれ鷹山さんにプレゼントするわ。ええやろ?」
「ええ!?こんな高価なもの貰えないよ。」
「んん?高価?これが?実はわいはお金を溜め込む主義やねんなぁ、金なんかいらんぐらい溜まってるねん。そんなん気にせんと受け取ってや。わいはここまでいっぱい助けてもらったお礼やと思って、な?」
空はいつもと違う大輔の表情を見た。何か押し寄せるようなオーラが感じられた。いつもとは何かが違った。
「うん、ありがとう。じゃあお言葉に甘えさせていただきます。」
「よっしゃ、これでコーディネートしたかいがあったゆうもんや。」
大輔はさっそく店員を呼び寄せて会計するように頼んだ。店員が電卓を打ってはじき出した金額は・・・5万円だった。
うん?とも思ったが中学生でこれはおかしい値段だ。普通ではない。大輔は普通に財布から取り出し諭吉を5人引き渡した。
わざわざプレゼント包装させ、店員を出口まで迎えるようにもした。荷物は大輔が持つこととなった。
しかしまだ空はプレゼントを決めていなかった。どうしようかと迷っていると近くで露店を見つけた。ペンダントを専門で扱っているらしい。
(あっ、こんなのいいかも。)
空は少しの間大輔をその場で待ってもらうことにしてその露店に立ち寄った。
何分か探しているといいものを見つけた。獅子のレリーフがされた写真を入れることができるペンダントだ。値段も2000円となかなかリーズナブルである。
(気持ちがこもっていれば・・・大丈夫だよね?)
ペンダントに彫りをいれることができるらしいので「14歳の誕生日おめでとう」といれてもらうと同時にもうひとつふたの裏に彫ってもらった。そしてそれを大輔に渡した。大輔はとても喜んでいる様子だった。2人はそのまま帰ることにした。

<大輔の家の前>
「今日はほんまおもろかった。またどっか行けたらええなぁ。」
「そうだね、楽しかったよとても。ペンダント大事にしてよね。」
「当たり前やん、肌身離さず持っとくわぁ。ほな おおきにね。」
大輔は家の中へ入っていった。空も帰ることにした。

大輔は部屋の中にいた。ペンダントを確認することにした。ライオンのレリーフがなかなかかっこよく後ろに彫りいれているのも実にいい。
安物だからメッキをはってあるのがまる分かりだが写真を入れれるのがこのペンダントのメインだろう。
部屋にいつも飾ってあった立てかけ式の写真立てがあった。いつもこれを見て目覚めるのだ。
写真には海と大輔と空が写っている。大輔は一瞬で「これだ」と思った。
さっそく綺麗にはさみで切ってペンダントにはめ込んだ。3人で撮った最後の写真だ。ここで初めてふたの裏に彫りがあるのに気付いた。
「BLUE SKY」と彫られていた。
(どういう意味なんやろ?青い空かぁ。鷹山さん、ありがとう。)
大輔はいつもの仕事服の内ポケットにそれを詰め込んで夕食の支度するべくキッチンに向かった。
(今日は久々に和風でせめるとするか。)

<空の家>
空はさっそく母に見てもらうためもらった服に着替えた。
鏡の前に立って確認した。実にぴったしでどうしてかモデルさんになったような気分だった。
(でも大輔くんもぴったしの服を見つけるなんて・・・やっぱり見てるのは目だけじゃないのかなぁ。)
そして空は母に見てもらった。空の母は羨ましそうに
「空がブランドものをねぇ・・・羨ましい限りだよ。でも綺麗ね、江井原くんのこと好きなの?」
「ち、違うよぉ。わ、わたしは仲良くなりたいだけなんだからぁ。」
「ふふ、あなたは昔からウソをつくのが苦手ねぇ。あっ、お客さんだよ。」
自動ドアが開いて入ってきたのは大輔だった。母はニヤっとこちらを向いて笑っている。
「江井原さん、こんばんは。今日はどうするかな?」
「え〜と、バターを50グラム。今日はほうれん草のバター炒めやねん。」
「料理するのかい?すごいねぇ。空にも教えてやっておくれよ、この子パンしか作れないの。」
「お母さん、余計なこと言わないの。」
空の母は奥にしまってあるバターを取るために厨房の方へ向かった。大輔が話しかけた。
「鷹山さん、やっぱ似合うわぁ。」
「その鷹山さんってやめてほしいなぁ、わたしには「空」って名前がちゃ〜んとあるんだからぁ。」
「そうやな。」
空の母がバターを持ってきた。
「あら?お邪魔だったかしら。」
「いえいえ。ほな おおきに、空ちゃん。」
大輔は手を振って帰ってしまった。
「空ちゃん、だって。もう下の名前で呼ばれるなんてあなたもはやい子だねぇ。」
「もう、そんなのじゃないって言ってるでしょ。」
はははと母は笑って閉店の準備をしだした。空は部屋に戻りながら思った。
(やっと下の名前で呼んでもらえた。今、わたしは胸がはち切れそうなくらい嬉しいよ。)

彼もまた自分の家につき、料理をしながら考えていた。


神様、わいに一回だけ夢を見させてくれへんか。そう、空ちゃんともっといさせてくれへんか。
もうわいは十分苦しんできたはずや。そろそろええ夢を見させてくれてもええやろ。
このわいに唯一残ったあきあきな人生に光をくれてもええやろ?
もうわいには・・・・・・・・・・・守るべきお姫様がおるから。





END








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