外伝 - 4- 空色の瞳
江井原 大輔(男子3番)鷹山 空(女子1番)






盲目の日々から開放される大輔だが新たな問題発生!?

<眼膜移植手術3日前>
大輔は珍しく早くから起きていた。何となく目が覚めたのだが何か予感があったのだ。
入院してからもう2週間が経っていた。大輔はもう窓のカーテンを自分で開けれるようになるまでになっていた。
おぼつかない足取りでカーテンの傍まで寄ってカーテンを開いて手を沿わせながら窓の鍵を開ける。
爽やかな朝の風が室内を通り抜ける。あまりの気持ちよさに体ごと持っていかれそうだった。
いつも看護士の高波さんが来る時間より早くにドアがノックされた。大輔は変に思ったが入るように言った。
大輔は入ってきた人間を大体把握できるようになっていた。大輔の予想なら入ってきたのはかかりつけの医者だ。
「江井原さん、吉報です。ドナーとなる患者が見つかりました・・・が問題が多々あります。」
予想が当たっていたのは間違いないらしいがそんなことよりもその“問題”のほうが気になった。
しかも少しではなく“多々”らしい。大輔は素直に聞くことにした。一刻も早くこの暗闇から開放されたいのだ。
「なんや、その問題ゆうのは?」
「それがですね・・・非常に言いにくいのですが。」
「わいはな、早ぉ目ん玉治したいんや。」
医者は一度ため息をついた後、仕方なさそうな感じで答えた。
「分かりました、ではお話いたしましょう。眼膜のドナーは脳死の人が必要になります。今回の場合はかなり特殊なものなのです。ドナーをしてくれるのは国家犯罪でもある密入国者なのです。国家の警察のメンバーが捕らえようとしたところ逃げられてしまいその時に発砲したときにうまい具合に頭だけを貫き脳死の状態になっているのです。つまり君が今ドナーを受けると重犯罪者の眼膜をはめ込むことになります。さらに彼の眼膜の色は「青」なんですよ。たぶん英国あたりの人種なのでしょう。それでもいいなら手術を行いますが。」
「ええで、別に。じゃあ、いつ手術やるん?」
大輔は即答した。医者の方は驚いていた。もう一度確認してきた。
「本当にいいのですか?」
「だからええゆうとうやろ。いつすんねん?」
返答は変わらなかった。大輔にとって目の色はなんら関係ないのないものだった。それがどうした?というところだ。
「分かりました。3日後に行いますのでよろしくお願いします。」
「ああ、おおきになぁ。」
医者はすごすごと部屋から出て行った。大輔は開放感に浸っていた。
(やっと暗闇から開放されるなぁ・・・早ぉ3日経たへんかなぁ。)

<その日の午後>
いつもの時間にパンを両手で抱えながら鷹山空はやってくる。
大輔はこの時間がとても楽しみだ。唯一、外の人間と話ができる時間(カズは滅多に来ない)というのもあるが安心できるというのが本心である。いつもどおりに空がパンを持ってきて大輔はそれを食べながら他愛もない話と空が持ってきたノートで勉強をするのだ。
この生活を始めてからというもの空といる時間が大輔にとってはとても多かった気がした。
空は雨の日も風が強い日も来てくれていた。しかしそれは大輔にとっては苦痛でもあった。
毎日のように胸の痛みと火照りに襲われて寝る。大輔の中に今までに感じたことの無いものが襲う、違う何かうごめいていた。
何かに堕ちていくような感じだ。そして起きれば朝になっている。それの繰り返しだ。
空はなにか考え事をしている大輔をぐいっと覗き込んだ。普通は驚くのだが大輔は目が見えないのでそれすらも分からない。
「どうしたの?そんな顔しちゃって。」
「んん?いや、何でもないけど。あっ、そういえば手術決まってん。3日後やって医者がゆうとったわぁ。」
「ええ!?本当?よかったね。これで大輔くんも学校に行けるね。」
大輔は今頃になって気付いた。そう、彼は孤児院暮らしのせいで忘れていたのかもしれないが今は立派な中学生なのだ。
そんなことは完璧に忘れていた大輔だった。
(そうやったぁ、わい今は立派な一般市民の中学生やん。うわぁ、全然実感なかったわぁ・・・ヤバイなぁ。)
大輔のいつもの癖がでてしまった。少し困惑すると頭をポリポリとかいてしまうのだ。
空はいままで触れなかった部分に触れることにした。
「大輔くんは向こうの学校ではどうだったの?」
大輔は返答に困っていた。学校なんて行ったことが無いのだから。大輔はそれっぽいウソをつくことにした。
「普通の人間やでぇ。しいてゆうならバンド組んどったな。(うそやけど)」
「そうなんだぁ。バンドかぁ・・・パートは?」
「ドラム、いかにもって感じやろ?」
空は気付かれないようにさりげなさを装って大輔の頭からつま先まで見てみた。体格はがっちりしているみたいだ。
「そうだね。大きな体だね。ってもうこんな時間かぁ・・・ごめんねぇ。」
空は立ち上がって部屋を出て行こうとした時、大輔に声をかけられた。
「いつもありがとうな。」
「どうしたの改まっちゃって?」
「いや、何でもない。おおきになぁ。」
大輔は軽く手を振った。空もそれに答えて手を振った。
ドアが閉まる。また大輔を「アレ」が襲う。

<手術当日>
大輔は部屋から運び出された。部屋から外に出るのはトイレに行く時ぐらいなので外の空気がすごく新鮮に思えた。
搬送用のベットに乗って向かうところは手術室だ。あの独特の緊張感が漂うガラガラという音がいかにもという感じだ。
特に恐怖は感じなかった。しばらくするとアルコールの匂いがしだした。ちょうど手術室に着いたのだろう。
そして大輔は口の辺りに麻酔機当てられた。すぐに意識が無くなった。



手術室の前では学校帰りの空とカズが来ていた。手術中という赤いランプが消え、医師が中からでてきた。
「手術は無事に終わりましたよ。わたしは眼膜手術は初めなのですが見事成功いたしました。」
「そうですか、ありがとうございました。」
カズは丁寧すぎるほど深々と頭を下げた。空もいっしょに頭を下げた。医師は軽く礼をして戻っていった。
すぐに搬送用のベットに乗った大輔がでてきた。まだ目の辺りに包帯が施してあり、すやすやと寝息を立てていた。
カズと空はそれを運ぶ看護師さんに大輔の病室まで付いていった。



大輔は目を覚ました。目が見えないのは包帯のせいだとすぐに気付き、包帯をするすると剥がした。
一瞬とても明るい光が差し込んできた後、空とカズの顔が見えた。
カズはにっこりと笑っていたが空は驚きの表情であった。
「だ、大輔くん!?め、目が・・・青いよ!?ど、どうしたの?」
大輔もいきなりのことで驚いた。空が何故驚いているのか理解できずにいた。
普通ならここで喜んでもらうのがスジである。それなのにここまで驚かれるこっちも驚いてしまうのだ。
大輔は何がどうなっているのか分からなくなっていたので話を整理することにした。
「鷹山さん!?どないしたん?いきなり・・・まあ、落ち着きぃや。」
空は何回か深呼吸して息を整えていた。大輔はその間に鏡で自分の顔を確認することにした。
(うわぁ、これはひどいなぁ・・・真っ青やん。いやぁ、ここまで青いと思ってなかったでぇ。)
空色のように澄んでいて青い目だった。いままで大輔がたどってきた人生の逆を表すような色だった。
空は落ち着いたのか質問を続けた。
「大輔くん、その青い目は何?カラコンでもいれているの?」
「いや、ちゃうでぇ。これは正真正銘の人間の眼膜や。まったく張り付いているって感覚あらへんし。」
「そんなの聞いてないよ。それだったら教えてくれてもよかったでしょ!」
「言いそびれただけやん。そういきり立たんでもええやん。別に青い目になったって何も起こらへんって。」
「でも青い目をしてるだけで皆に違う目で見られるかもしれないんだよ。わたし、誰かがいじめられたり、いじめたりするのはもういやなの。大輔くんがそのことでいじめにあったりしたら・・・わたし。」
「そんなこと心配してくれとったんかぁ。ありがとうな。でもなぁ、それは心配ないでぇ。鷹山さんは自分のことより人の心配する子やなねんなぁ・・・えぇ子やぁ。そないこと心配せんでもええから、なっ?」
大輔はかつて自分の妹にしていたことを空にもしてあげた。髪をそっと撫でるように頭を撫でてあげた。
空は少しぷぅっと顔を膨らましながらこちらを見ていた。そこでカズが口を開いた。
「鷹山さん、そろそろ面会時間は終わりだよ。今日のところは帰ったほうがいいんじゃないかな?」
「そうですね、分かりました。じゃあ、大輔くんまた明日ね。明日から学校だから遅れないようにしないとダメだよ。」
「了解やぁ。ほな おおきになぁ。」
空はいつもどおり部屋を出て行った。今日はいつものヤツはこない。カズがいるからだろうか?
カズは深々と椅子に座ってゆっくり話しかけてきた。
「どうだい、久々の景色は?」
「世界がこんなにも輝いているものやとは思わんかったわぁ。明日から学校かぁ、おもろいかなぁ学校。」
「それはダイが面白くしていくんだよ。私も一般市民として生活して1年が経とうしているがやはりあの孤児院の生活とは全然違うよ。で、ダイはこれからどうするんだ?やはり仕事には戻らないよな?」
「いや、戻るわぁ。目的はちゃうけどな。わいはタナカグループを潰すために戻るわぁ。わいの大事なもん全部奪いよったからなぁ。」
カズはニヤッと笑った。カズはダイならこう言うと思っていたからだ。
「そうか。なら私もできるだけ手伝いをしようかな?情報収集なら得意分野だ。」
「気持ちはありがたいけどこれはわいの問題や。自分で解決するから気にすんな。」
「分かった。仕事のことだが明日からだ。五十嵐さんが息子をよろしくだって。君の担任は僕だからね。」
「ええ!?カズが担任やって?ほんまかいな。明日からさっそく仕事かいなぁ、CHILDRENには暇なしやね。」
「君が一番人気だから仕方ないよ。じゃあまた明日。」
そう言ってカズは部屋を出て行った。
(ここからわいの復讐劇が始まるんや。覚悟しときいや、こうなったらなにがなんでもあつらを徹底的に潰すからなぁ。)

<初めての学校の朝>
「大輔く〜ん、もう時間だよぉ!」
外から声が聞こえてきた。大輔はそれで初めて目が覚めた。ごしごしと目を擦りながら窓から外を確認する。
一人の少女がこちら向いて話しかけてきているようだ。まだはっきり目が覚めてないので何を言ってるのかは理解できていなかったが。
大輔は昨日の夜家に帰ってきたばかりだった。色々していると時間が経っていて結局寝たのは4時ぐらいだった。
着替えるのが面倒なので学ラン以外は着たまま寝ていた。それのせいか少々カッターシャツがしわしわになっていた。
「早くしないとぉ、遅れるよぉ!」
大輔はベットに投げ捨ててあった学ランを着ながら今日の用意を入れておいたカバンを持って返答した。
「分かったぁ〜今からいくわぁ。(誰か分からんけど)」
大輔はどたどたと階段を降りていったが途中で足がもつれて勢いよく転がりながら1階まで落ちていった。
空は外で待っていたのだが急になにかが落ちる音が大輔の家の中から聞こえてきたのでびっくりした。
大輔がおしりの付近をさすりながらドアから出てきた。だが表情はいたって普通である。特に外傷も見られないので大丈夫だろう。
「あ〜そういや今日から学校やったなぁ。見事に忘れとったわぁ。」
「もう、昨日あれだけ言ったのに。もしかして朝食食べてないでしょ。」
「あたりまえやろ。さっき起きたばっかやし。そんなんどうでもええやん、はよう行こうや。」
「ダメだよ、朝ごはん食べないと。はいっ。」
空があらかじめ用意してあったかのように茶色の紙袋にいれてあるパンを大輔に差し出した。
大輔はしぶしぶパンを受け取り、食べながら歩き出した。
「ありがとうな。ほんまうまいわぁ。鷹山さんはほんまに作るのうまいね、いいお嫁さんなれるでぇほんま。」
「それこの前も聞いたよぉ。別に大輔くんのお嫁さんになるわけじゃないんだからぁ。」
「はは、ほんまやなぁ。わいなんかとおったらあかんでぇほんまぁ。」
大輔と空はそんな他愛の無い話をしながら学校に向かった。

(そうや、わいは大事なもんはみ〜んな誰かに持って行かれるんや。だから・・・もう夢は見ぃひんのや)

つづく





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