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武車健太(男子10番)と和久井優子(女子9番)の勉強奮闘記 |
武車健太(男子10番)・和久井優子(女子9番) |
<中学2年の3学期末テスト1週間前の日> ついにこの季節が来てしまった。学期末テストである。 まだ冬の寒さが残るこの季節に行われる最大にして最悪のイベントである。 優子もそのテストが近いことがすごく憂鬱であった。 勉強は苦手で嫌いであった。しようと思って机に座ってもすぐにほかの事に気移りしてしまうのだ。 テスト週間になると急に部屋の掃除がしたくなったり、レンタルビデオで感動に浸ったりとなってしまうのだ。 しかもこの学校では「お互いの学力深め合おう」ということで2人組を組まされるのだ。 国語、数学、英語、理科、社会の5教科500点が二人で1000点でクラスの中で点数を競い合うのだ。 つまり、二人の合わせた合計点がクラスで1番になることを目指すのだ。1位になると賞状がもらえるのだ。 だから学期末テストは皆、気合を入れて勉強する、優子はいつも憂鬱になるのだ。 (今回は誰と組むのだろう?) 最下位こそにはならないものの組む人に迷惑をかけたくなかった。 だから組む人が誰なのかすごく気になるのだ。 井上先生が組み合わせの発表用紙を配った。用紙を見て落胆する者もいれば、喜びを露にする者もいた。 優子は配られた用紙を確認する。優子は女子の9番なので最後に書いてあるのだ。 『男子10番と女子9番』 (男子の10番って誰だっけ?) 優子は教室の後ろにある出席番号と名前の書かれた紙を見た。武車健太だ。 (武車?だれ?・・・ああ、委員長と一緒にいるやつかぁ・・・武車の席はっと) 優子は健太の席を自分の席から探した。そして見つけた、ぼぉと何もないところを見ているようだった。 (あ、頭悪そうぉ〜。まあ皆の成績はあんまり知らないんだけど。) 優子が知っているのは上位3位ぐらいまでだ。人の点数なんて気にしていないからだ。 健太がこちら側を向いてため息をついていた。 (何っ!?あの態度。むかぁ〜。) 優子は健太に向かってべぇ〜としたがこちらを向いていなかった。 <その日の放課後> 優子は教科書をバッグの中に詰めて教室を出ようとした。今日は好きなドラマの再放送があったので早く帰りたかったのだ。 優子が教室を出ようとした時に健太に声をかけられた。 「和久井さん、今日空いてる?」 「武車くん?何?どっか連れて行ってくれるの?」 「んん?いやぁ、一緒に組むわけだし図書館で勉強でもしようか?とおもったんだけれど。」 「ごめ〜ん、今日は用事があるんだぁ。明日にしてねぇ〜。」 優子は返答を待たず教室を飛び出した。ドラマのことで頭がいっぱいだった。 (だから俺は組みたくなかったんだ。仕方ない、陽ちゃんと勉強するか。) 「陽ちゃん、図書館いこうぜぇ。」 「分かった。じゃあ鷹山さん、明日は勉強しような。」 どうやら陽平の相方は鷹山空のようだ。 「うん、分かった。大輔くん、帰ろうよ。」 「ちょっと待ってやぁ。まだ教科書、カバンに入れてないねん。」 「ずっと寝てるから悪いんだよぉ。」 「しゃあないやん、眠いねんから。」 二人の楽しそうな口論を聞くのも飽きたので健太と陽平は図書館へ向かった。 <次の日> (今日こそは勉強してもらわなければ。俺の成績にも響く。) 健太は教室を出ようとした優子に声をかけた。 「今日は大丈夫だろ?」 「うん、いいよ。図書館でしょ?」 思っていた返事と違っていた。てっきり「無理。」とか言われるのかと思っていた。 健太はなぜか気分のいい優子と図書館に向かった。 <図書館> 一(はじめ)中学には大きな図書館が存在していた。古い学校なので昔からの書物も多く残っている。図書館の大きさの割りに人数が少ないため、広く机が使えるのも魅力だった。今はテスト1週間前なので多くの生徒が利用している。健太と優子は鉛筆がカリカリとしている音しか聞こえない図書館の中心に近い机に座った。そして、健太は教科書を開いて勉強を始めようとしたが優子は教科書を出す気配はまったくない、健太のほうを見ながらニコニコ笑っている。 「分からないことがあったら質問してくれ、できるところは答えるから。」 「じゃあ、武車くんの好きな人は?」 健太は即答した。 「いねぇ。(うそ)」 「本当にぃ?」 「勉強に関係ないこと話するなよぉ、後6日しかないんだぜ。」 健太はそれに答えたきり問題集と格闘していた。優子もしぶしぶ問題集を開ける。 優子は問題集を開けたものの鉛筆が一向に進まない、自分の苦手な数学だからである。 ペン回ししたり、問題集の端で落書きをしたりしていた。健太はそれで気が散るのか声をかけた。 「和久井さんは本当に勉強が嫌いなんだね。」 「だって数学が分からないんだもん。」 「どれが分からない?見てやるよ。」 優子が問題集に指差した。健太はビックリした。 「それは基本中の基本だよ。」 「分かんないものは分かんないもん。」 「つまりだなぁ・・・・・・」 健太が簡単な説明を加えた。優子は熱心にそれを聞いた。なんとなく分かったようだ。 「えぇ?こうやって・・・こうやって・・・こう?」 「そうそう、やればできるじゃん。」 「武車くんって勉強教えるの上手だね。」 「そうかぁ?勉強なんてそんなに難しいものじゃない、順位が上がらないのは他のやつが頭良すぎるんだよ。」 「ふ〜ん・・・まあいいけど。じゃあ、ここは?」 「んん?ああ、ここはこうやって、こうやってこうだ。」 「ん?つまりこうやって、こうだよね?」 「うん、正解だ。なんだ、やっぱりできるじゃん。」 優子も驚いた勉強で褒められたのは初めてだった。もちろん数学がいとも簡単に解けたのもだ。 それで嬉しくなったのか優子は問題集に取り掛かっていく、さっきまでの落ち着きの無さがウソみたいだ。 健太はその様子に安心して自分の勉強に取り掛かった。 <テスト1日前> 「ここまで順調だ、和久井さんの努力のおかげで明日のテストは堂々と受けれそうだよ。」 「そう?あたしは全然ダメダメだけどねぇ。」 「今回は1位も狙えそうだよ。あの小宮山もあまり成績のよくない武藤さんだし、江井原も成績不振の二宮さんだし・・・問題は陽ちゃんだけだ。なんせ鷹山さんだからなぁ・・・陽ちゃんはクラスで2番ぐらいだし、鷹山さんも10位以内には入っている、今回一番1位に近い組み合わせだ。」 「へぇ〜、委員長って頭いいんだぁ。」 「俺も10位以内には入っているぞ・・・一応。」 「ふふ、そんなに気にしなくても委員長と武車くんは「月とスッポン」だから。」 「いいよ、別に・・・」 健太は少し不機嫌な顔になり、うつむいてしまった。 (あっ、ちょっと言い過ぎちゃったかな?) 純粋な健太に対してちょっと言い過ぎたと思ったので優子も心の中で反省した。 そして黙々と勉強をしている二人、距離が少し縮まった気がした。 ・ ・ ・ 「そろそろ閉館で〜す。」 図書委員の声が聞こえた。健太は鉛筆を止め、時計を確認した。現在午後5時だ。 (もうこんな時間か、あれ?誰もいない?) 隣には優子がいた。しかし、彼女以外に誰もいない。今は二人きりだ。 優子はいい寝顔で寝ていた。優子がしていた問題集を覗くと全て終わっている。 どうしたものか、起こすのが普通なのだろうが何故か起こす気になれなかった。 健太はため息を1回して、優子をおんぶした。 自分の分も合わせて2人分の荷物と人間を運ぶのは少し無理があるのかもしれないが健太は歯を食いしばりながら校門をでて歩いた。 ちなみに健太の家から優子の家までは1キロほど離れている。つまり往復合わせて2キロ余計に歩くことになるのだ。 健太は気持ち良さそうに寝る優子を見ながら思った。 (今日は良くがんばったな。明日もがんばろうぜ。しかし、さっきから背中に柔らかいものが当たってるんですけど・・・) 制服越しからでもそれが分かったのはある意味怖かった。優子の家まで着くまで健太は火照りぱなしであった。 優子の家に着き、向こうの母親に彼女を渡した。“わざわざどうも。この子集中力ない子だから。”と笑いながら言っていた。 健太は寄り道せず家に帰って夕食も食べず深く深く眠った。 <テスト当日> 健太は教室にやってきた。皆はとっくに席についていて思い思いに勉強していた。 まだ来ていないのは優子といつもどおりの江井原だ。 (和久井さん、まだ着いていないのか?もうすぐ始まるぞ。) そのときドアが勢いよく開いた。優子と江井原が同時に入ってきた。先生も同時に入ってきた。 「じゃあ席につけぇ。さっそく始めるぞぉ。」 井上先生がテストを配りだした。クラスの空気が変わった。健太はこの雰囲気が嫌いだった。 ・ ・ ・ (おっ、終わったぁ〜) 長きに亘った5時間のテストも終了し心の全てが開放された気分だった。 優子のほうを見たがかなりお疲れのようだ。 健太は話しかけるのはやめて帰宅することにした。 <結果発表日> ついにこの日がやってきた。 今学期の成績を決める一大イベントの一つだ。 井上先生が教室の前で発表するのだ。発表されるのは上位3位だけだ。 「ではさっそく発表いたします・・・3位小宮山、武藤組。」 クラス中から歓声が沸いた。小宮山は単独なら間違いなく1位であったがチームによりあまりいい結果がでなかったのだろう。 小宮山は悔しそうな顔をしているが武藤のほうはとてもいい顔だ。 「はいはい、静かにしてね。2位は・・・・・・・・立花・鷹山組。」 歓声が沸いたが驚きのほうが増しているのだろう。間違いなく1位を取ると言われた組が2位なのだから。 健太は少し汗ばんできた。もし自分達が選ばれたらどうしよう。でもそれはありえない話だ。なにせあの和久井優子となのだから。 「栄えある第1位は・・・・・・・武車・和久井組です。おめでとう、あなたたちは次回の朝礼で表彰されます。」 3−1からはち切れんばかりの歓声が沸いた。健太は確認のため頬をつねった、痛みを感じた。 これは夢ではないのだ。今まで夢にまでみた1位を獲得できたのだ。 健太の周りにクラスの男子が集まってきた。皆が口々に「どう勉強したんだ?」とか「何があったんだ?」と言っている。 そして胴上げされることになってしまった。健太は身長はそこそこあるのだが軽いので良く飛んだので怖かった。 <放課後> 「武車くん。」 健太は優子に呼ばれた。 「何?ああ、今日はお疲れ様。本当にありがとう。」 「うん、昨日はごめんね。なんか送ってもらったみたいで。」 「別にいいよ。俺が勝手にしたことだし。」 「あの時、どうしてだか分からないけどお父さんを思い出したんだぁ。昔大きな背中におぶさって寝たを思い出したよ。」 「そうなのか・・・よかったな。」 「うん、ありがとう。私からお礼ね。」 優子はそっと健太の頬にキスをした。 健太はいきなりのことでビックリして力が抜けてしまった。 「じゃあね。本当にありがとう。」 優子は手を振りながら校門の方へ走っていった。 「俺もだ。ありがとう。」 健太も走り去っていく優子に向かって大きく手を振った。 |
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