■第二部■ プログラム編 - 13 - 悲劇 |
「(いつからこうなってしまったんだろう) 二宮 歌音(女子3番)は思った。 (兄さんも昔はこうじゃなかった・・・体なんか求めなかった・・・) 歌音は心で泣いていた。現在の状況はそういう状況ではなかったからだ。 (昔は・・・・) ・ ・ ・ 「お兄ちゃ〜ん・・・うっうう、ううう。ぐすっ。」 歌音は泣いて帰って来た。学校で何かあったらしい。 膝にはかすり傷、肘には擦り剥いた後がついていた。 ただごとではないことが歌音の身に起きたらしい。 「どうしたの?歌音?そんなに傷だらけで?」 歌音の母、美恵子が玄関で泣いている歌音に寄っていった。 「お母さん・・・うああああん。」 歌音は泣きっぱなしだ。何が起こったのかまだ聞きだせずにいた。 「だ、大丈夫か?歌音?」 信人は抱きながら歌音を泣き止まそうとしている母に近づいた。 「誰がしたんだ?」 信人は必死に歌音から聞き出そうとした。 でも、泣きじゃくってる歌音から聞き出すのは簡単ではなかった。 仕方がないので信人は泣き止むまで待つことにした。 まだ泣いている歌音を部屋に戻した母が信人の待つリビングに降りてきた。 「歌音から聞き出せても暴力はダメよ。」 「分かってるって。」 信人はTVを見ながら答えた。今は七原政権誕生でその特番ばっかりだった。 「ねぇ、お母さん。」 「なぁ〜に?」 いつもながら母の声は温かい声だった。全て包み込むような 「この七原って人、偉い人なの?まだ若い感じがするよ。」 「そうねぇ・・・偉くはないかもしれないけどすごくがんばった人よ。今こうやってあなたがお母さんと話しているのもあの人のおかげかもねぇ。」 「そうなんだぁ・・・俺もあんな風に皆を笑顔にできるかなぁ?」 「もちろんよ。その前に近くにいる人を笑顔にしなさい。」 信人はその意味を察していた。 結局その日歌音は何も口にせず次の朝を迎えた。 登校中も何も話さずそのまま学校に行った。 「ただいまぁ。」 「信人、こんな遅くまで何を・・・」 母は信人の姿を見て声をなくしてしまった。 ボロボロに擦り切れた服、あちらこちらにあるきり傷、腫れ上がった顔、ズタズタに切られた跡があるランドセル。 「の、信人・・・どうしたの!まさかケンカしたんじゃないでしょうね!?」 「そんな大きな声で言わなくても聞こえるよぉ。ケンカはしてない・・・ただ・・・」 「ただ?」 歌音は玄関で大声を出している母とボロボロになって帰って来た信人の姿をみて驚いた。 「どうしたの!?お兄ちゃん!?」 歌音はボロボロになった信人に近づいた。 「歌音に手を出すなって言っただけさ。そしたら殴られた。俺は暴力はふるってないよ。」 母は泣いていた。母は信人を抱きしめながら言った。 「こんな姿になってまでどうして・・・どうしてそんなことを。」 「だって歌音を笑顔にしたかったもん。これ以上悲しい顔見たくないから。」 「あんたって子は・・・バカな子ね。」 (ありがとうお兄ちゃん。) 歌音は心の底からそう思った。 <中2> 歌音と信人は一緒に下校していた。最近子供を狙った事件が多発してるらしい。 「こうやって二人で帰るのは何年ぶりだろうね?」 歌音が沈黙に耐えられず口を開けた。 「本当に久しぶりだな・・・歌音?」 「んん?なに?」 歌音は急に呼ばれてビックリした。 「前から言いたいことがあったんだ・・・聞いてくれるか?」 歌音は急に胸の鼓動が速まった感じがした。信人が真剣な眼差しで歌音を見つめたからだ。 「改まってどうしたの?」 「実は・・・お前のことが好きなんだ・・・兄妹愛とかじゃなくてお前を一人の女性として。」 歌音の鼓動は頂点に達していた。それもそのはずでいきなり告白されてしまったからである。 歌音は必死で抑えようした。胸の鼓動が信人に聞かれそうだったから。 「私も兄さんことが好きだよ・・・」(あの時から) 信人は倒れそうな歌音の肩を寄せてやった。 とても寒い冬の出来事だった。 (その日私は体を許してしまった・・・それが当たり前になってしまった。) ・ ・ ・ もう終わってるのに二人の息は荒かった。 信人はもう服を着始めている。歌音はベットに沈んだままだった。 「歌音、早くしないとここも禁止エリアになってしまうぞ。」 歌音はどっちか分からない感じで頭を振った。 そしていつもどおりの制服に着替えて小屋をでる準備は万端だった。 「そろそろ行くぞ。」 ドアを全開にしようとしたが途中でガンと何かにぶつかった。 (まさか!?) 信人は自分の持っていたマシンガンP−90を構えて外に出た。 案の定だった。ドアの当たったところを押さえながらうずくまっている少年を見つけた。 五十嵐 慶吾(男子2番)だった。 (こいつ、俺たちの状況を見ていたのか?) 「おい、歌音!早くしろ!」 歌音が出てきた。 「歌音、早く逃げろ!」 「どうしたの?いきなり!?」 「いいから早く!後で追いつくから!」 歌音は走って行った。 信人は危険を察知していた。そこに転がっている少年の顔は返り血を浴びていて、服も血のにおいがする。 慶吾はやっと何が起こったか分かった。自分は銃を向けられてた。 (チャンスだ!大当たりを奪える!) 慶吾は手を上げながら降参の合図をだした。 「どうしてお前がここにいる?」 信人は慶吾の胸ぐらを掴み銃を突きつけた。 慶吾は無言だった。どう奪うか考えていたからだ。 「なにもしゃべれないのかお前は?ちぃっ。」 信人は手を離して銃を向けたまま後ずさった。 そして後ろを向いて走りだそうとした瞬間だった。 背中に何か刺さった。信人は痛みで隙を作ってしまった。 慶吾が背中から飛び乗り手につけていたメリケンサックで信人の頭を殴った。鈍い音がした。 倒れた信人から銃を奪った。そして信人の背中に銃を向けた。 どどっどどん。どどっどどっどっどどどん。 耳の鼓膜が破けそうになる爆音が30回以上聞こえた。 信人の背中はもう原型を留めていなかった。 信人のバックを探った。幸いにも予備のマガジンが1つあった。 慶吾は今ささっている空のマガジンを投げ捨て、今拾った予備のマガジンをセットした。 慶吾は急いだ。もうすぐここも禁止エリアになるからだ。 (思わぬ収穫だった。あと妹の方も見逃さなかったらよかったのだが) 信人は消え行く意識の中で叫んだ。 (歌音、生き延びてくれ!) バーン。首の爆弾が爆発した。心停止していないときでも爆弾は爆発するのであった。 顔は笑って、心は泣いて。 |
死亡 | 男子8番 二宮 信人 |
銃殺 |
【残り 9人】と井上 和男 |
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